劇場公開日 2017年1月28日

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「優しくなければ生きている資格がない」恋妻家宮本 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0優しくなければ生きている資格がない

2022年12月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

幸せ

主役の阿部寛好きのカミさんの要望で鑑賞したが、コミカル仕立てで面白いだけではなかった。説経臭くなることなく、夫婦関係の在り方を問い掛ける、なかなかの作品だった。

本作はフィクションではあるが、熟年夫婦関係を詳細に観察して作られている。もう子供は独立したのだから、お父さん、お母さんという呼び方はおかしいから、名前で呼び合いましょうという妻(天海祐希)の提案、等々。思わず、そういえば私達も同じようなことが・・・と隣席のカミさんと顔を見合わせて苦笑いをする場面が何度かあった。主人公達夫婦がリアルに感じられ素直に感情移入できたが、プライバシーを覗き見られているような気恥ずかしさもあった。

本作は、お互いの気持ちが離れかけた熟年夫婦の再生物語である。冴えない中学校の国語教師である主人公・宮本陽平(阿部寛)は、一人息子の結婚を機に、妻・美代子(天海祐希)と二人暮らしを始める。ふとした切欠で、妻の書いた離婚届けを見つけた主人公は妻の真意を探ろうとするが判らず混乱していく。そんな主人公が、始めたばかりの料理学校の面々(菅野美紀、相武紗季)、中学校での生徒達との交流を通して、妻と真摯に向き合う大切さに気付き、妻との相互理解、相互信頼を取り戻していくまでがコミカルに描かれている。

冒頭のファミレスシーンが斬新で一気に作品に引き込まれる。主人公の半生がファミレスを巧みに使って綴られていく。ファミレスのメニューが多過ぎて注文がなかなかできない主人公の子供の頃からの優柔不断振り、何事も即断即決する妻・美代子(天海祐希)との出会いから結婚、長男の誕生に至るまでが面白可笑しく描かれている。

家庭に事情があり自虐的になった男子生徒を立ち直らせる過程で、主人公の優柔不断さの理由が解き明かされていく。正義を振り翳す厳格な男子生徒の祖母に対して、優しさ論で応酬する主人公が格好良かった。主人公の優柔不断さは、常に他者のことを想い、どんな事にも真摯に向き合っている結果である。優しくなければ生きている資格がない、という諺を体現していると得心した。

ラストもまたファミレスを巧みに使っている。吉田拓郎のヒット曲に乗せたミュージカル仕立てで洒落ている。フィナーレという言葉が相応しい。主要出演者たちが登場する大団円は舞台劇を観ているようだった。名作『蒲田行進曲』のラストを思い出した。

ハッピーエンドのお手本のようなラストであり、観終わって心が温まる作品である。

みかずき