「史実に忠実だが話の作りが甘い」未来を花束にして こと☆さんの映画レビュー(感想・評価)
史実に忠実だが話の作りが甘い
ちょっとがっかりした映画。
テーマは非常に良く、また、登場人物に敬意を払い、史実に基づき、史実に忠実な映画という観点で見れば、まあこんなもんか、と、そこそこ出来の良い映画ではある。
しかし、単に作品そのものについて論じるならば、話の構成は恐らく虎頭蛇尾の謗りを免れられないだろう。一人の活動家の死によって、参政権運動は注目を集め、やがて成功した、という終わり方は、殉教者を讃えるというよくある新鮮味の無い作りに陥っている。史実には合致しているのかもしれないが、話の作り手としては無責任だと感じずにはいられない。主人公の子供はどうなったのか、その後どのような戦いを経てやっと成功したのか、などの情報は一切無かったし、伏線が回収し切れていないようなもやもや感が残る。また、殉教者によって全てが変わったというような話を観ると、殉教者が出ても何も変わらない現代社会を思い出して絶望するばかりだ。
特筆すべきは、邦題『未来を花束にして』も、ラブリーでふんわりとした日本版ポスターも、戦闘シーンと男性に刃向かうシーンを全てカットした日本版予告編も、最低だと言わざるを得ない、ということ。マーケティング戦略なのは理解できるが、作品の作り手、作品そのもの、更には史実に対する敬意を感じられない。やっぱりこんな、差別されている人達が自らの権利のために立ち上がって闘うような映画も、日本社会の差別に迎合しなければならないのか、と、絶望的な気持ちになる。
付け加えるならば、『未来を花束にして』は決して、「百年前の人達の頑張りのせいで私達は参政権を手に入れた、感謝感謝、はい、現代最高」に留まる映画ではないと思う。女性は参政権を手に入れた。では他の差別は?生きる権利を奪われている弱者は?そんな反省が浮かばない限り、この手の映画を理解しているとはいえない。