「女なら見なくちゃ。」未来を花束にして だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
女なら見なくちゃ。
サフラジェットが原題ですが、イギリスにおける女性参政権運動をする人のことを指すようです。
1910年代の彼女らの戦いを、架空の女性を主人公に据えて描いた物語です。
彼女らのやっていることは全くもってテロリズムだと思います。
なるべく人を傷つけないように配慮しているようですが、
いきなり自分の店の窓ガラスを割られた日には、ねえ。
そして、ラストの競馬場での行為は現代で言うところの自爆テロですから。
製作者側も、彼女らを全て是としているわけではないように思いました。
決死の行動の結果、参政権は獲得された。
だけど、その手段は悲しいものでもあったというニュアンスを受け取りました。
でも、どうしたって、その行動を取らせた気持ちには、深い共感を覚えます。
女は男よりも選べる選択肢が少ない世界なわけです。
その理由は男じゃないからです。それにもう甘んじられない。そんなのはいやだ。よく分かります。
ベンウィショーのような優しそうな(自分比)男性でも、ああなわけでしょ。
女が男と同じ権利を得ようとするなんてとんでもない。おとなしく夫に従ってればよい。
そうして妻を追い出しておいて、まともに子育てもできず、あっさりと養子に出す。
どんだけ無責任なの、どんだけ口先だけなの。
モードが我慢ならないと思ったのは、上司のセクハラのようでした。
セクハラでは主訴がぼやけてしまいます。
雇い主がその権力を使って、若い娘を陵辱したってことです。
かつては自分が味わった屈辱が、時が流れて友人の娘に及ぼうとしている。
そのおぞましさに、歯を食いしばって我慢する事ができなくなった。
そりゃ、許せないでしょう。手の甲にアイロンくらい、やってしまうかもしれません。
理不尽だと思うならば、その事を加害者・傍観者に知らしめる必要がどうしてもあるならば、
その行動はおのずと他者を巻き込むものにならざるを得ない。
申し入れが功を奏したならば、暴力や破壊行動を手段に選ばなかったでしょう。
声なき声よりも、耳障りでも耳に入れなければ進展しない。
その切実さに、体がちぎられるような気持ちで観ていました。
だから、破壊と暴力を許せといいたいわけではありません。
でも、無視され続けたら、そこに走るってことを学んだ方がいいと思います。
現在もあるテロリズムも始めからそうだったわけではないのだろうと思います。
無視され続けた結果なんだろうな、と。
既得の権利も殆ど暴力に頼って得てきたのではないでしょうか。
その手段を是としたかどうかは別として、結果的に。
人を殺さずに構築できなかった世界にいて、非暴力を理想とする。
全てが大いなる欺瞞に思えて、悲しくなりました。
私自身は、暴力を振るわなくてもよくなってきた時代に産まれ、殺すことなく今を生きています。
理不尽に思うことはたくさんあるけれど、ガラスを割らないと視界にも入らないほど
無視されている状況にはありません。
ですが、今もそういう気持ちの人はたくさんいるだろうなとは思います。
私は性格が大変悲観的なので、こういったくらーい感想をもちました。製作者の意図しないところでしょう。
ですが、やはり女ならばこの歴史を知らなくてはいけないだろうとも思います。おそらく製作者の意図はそこにあります。