「真実を知るのが怖いのではない。信じたことを疑うことが怖いのだ。」スポットライト 世紀のスクープ さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
真実を知るのが怖いのではない。信じたことを疑うことが怖いのだ。
つい忘れるが、我々は闇の中を手探りで歩いている。
そこに急に光りが射すと、ようやく間違った道に来たことに気付く。
2001年アメリカ・マサチューセッツ州ボストンの日刊新聞「ボストン・グローブ」のチーム「スポット・ライト」がある事件を調査し、記事にして公表するまでを丁寧に描いています。実話です。
事件というのは、カソリック神父による子供への性的虐待です。
カソリック教会は、事件を知っていながら、問題の神父(複数)を異動させたり、お金で被害者側を黙らせるなどしていた為、この事実が発覚するまで、かなりの年数が経っていました。
結果、とんでもない被害者数になっています。
この事件が発覚しなかった理由は、概ね下記の通りかと思われます。
1)カソリック教会が組織ぐるみで隠蔽していた。
2)殆どの被害者が貧しくお金で黙らせることができた。
そして本作を理解する上で、最も重要なこと。
3)キリスト教徒においての"神"の意味。アメリカ、そしてボストンの地域性(ほぼカソリック)。
が、理由に挙げられると思います。
アメリカの紙幣には「In God We Trust」と印刷されていますよね。
「我々は神を信じる」
これはアメリカ国家の公式なモットーですよね?
この事件が長らく発覚しなかったのは、勿論カソリック教会の腐った体質もありますが、もう一つは「聖職者がそんなことをする筈がない」という、いえ、そんなことを考えることすらできないほどの深い、深い、信仰心を持った人たちが住む国、そして街であったということだと思います。
この"深い信仰心""神"を理解しないと、本作の本当のテーマは汲み取れないように思われます。
例えば、マイケル・キートン演じる"スポット・ライト"チーフのロビーは、一度、この神父による性的虐待を記事にしています。
さらっと、軽く。
しかし、ボストンの地域性に縛られず、カソリック教徒でもない新編集長がマイアミから来て言うんです。
「この事件、もっと掘り下げるべきじゃないか?」
カソリック教徒のロビーは「とんでもなく重大な事件である」という、認識さえなかったんです。これ、上記した3)の理由を証明するエピソードだと思います。
光が、差した瞬間です。
当然こんな地域性ですから、記者達は色んな妨害にあい、事件を取材していくんです。
記者達がノートにメモをとっている姿が、新鮮でした。一つ、一つ、起こった事実を丁寧に書き取っていく。
大人になった被害者が数名、加害者もちらっとしか出て来ません。そして一番印象的なのは、起こった事件の"再現シーン"がないこと。
大人になった被害者への、聞き取り取材シーンのみです。
何故なら再現シーンは"想像"だから。
本作に好感を持ったのは、この点です。
ドラマティックな展開はありません。記者達を過剰にヒロイックに描いてません。寧ろ、ロビーのエピソードから、事件の一端はメディアにも責任があるという主張。
あ、なんだったら善悪とか、正義とかについて、何一つ言及していません。
ただ"事実"をありのままに伝えようとする、記者達の姿を淡々と描いています。
その判断をするのは、記事を読んだ読者。映画を観た、観客。
しかし逆に言うなら、私達は記者を通してしか、事件の全容を知ることができないということですね。
ここは言及せずに、含んでおきます。
ジャーナリズムの意味を、考えさせられる内容でした。
そして個人的に思うのは、本作は邦題のように"世紀のスクープ"を描いた作品でも、記者達の正義感を描いた作品でも、また、おぞましい事件を描いた作品でもないということです。
本作で描かれたのは、"恐怖"です。
聖職者から受けた性的な虐待は、「魂への虐待」と表現されています。
なぜなら、子供達は「神を失った」からです。信仰を失ったからです。
貧しい家の子供達にとって、教会へ行く意味、また"神"に縋る意味は、裕福な家の子より大きい筈です。
彼等は、生きる大きな"支え"を失いました。
その為、被害者達は薬に依存したり、中には自殺された方もいます。
記者達も、神を失いました。
もしかしたら、この事件の記事を読んだ人達も神を失ったかもしれません。
失わなくても、とてつもない"恐怖"を感じた筈です。
「おぞましい事件だ!やべ、こえー!」
でしょうか?
そうじゃないと思います。
本作で描かれてたのは、「世にもおぞましい事件を知る恐怖ではなく、"信じた何かを疑う恐怖"」です。
記者達の戸惑いと恐怖の向こう側に、自分のアイデンティティを根底から叩き壊され跪く人達の姿が見えました。
本当に、怖い映画でした。
やっぱ、映画館で観れば良かった!
アカデミー作品賞の中では、一番好きかもです。
あ、でも。
敢えて苦言を呈すれば、レイチェルの金髪ってあんまり好きじゃない。
あ、本作もマーク・ラファロは良いですが、私の中のベスト・ラファロは日本劇場未公開(DVDは出てるよ)の"それでも、やっぱりパパが好き!"だということを付け加えて、終了します。
※Catholic 日本では公式には「カトリック」と表記します。