劇場公開日 2016年4月15日

  • 予告編を見る

「絶対的権力の暗い道に差し込んだ一筋の伝える力」スポットライト 世紀のスクープ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5絶対的権力の暗い道に差し込んだ一筋の伝える力

2016年9月11日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

怖い

知的

本年度アカデミー賞作品賞受賞作。
カトリック教会の神父たちが約30年以上にも渡って幼児たちに性的虐待をしていた事実を伝えたボストンの地方記者たちの実話に基づく社会派ドラマ。

非常に良かった!
賞を獲ったからじゃなく、小さな存在が絶対的権力に立ち向かう。
その事実に衝撃し、その記者魂に心震える。
地味だとかあちこちで言われてるけど、記者たちが真相に迫っていく様はスリリング、性的虐待をした統計上の神父の人数にはショッキング!
確かに派手ではないが、淡々と丁寧な語り口がこの作品に合っている。
トム・マッカーシーの丹念な演出とオスカーに輝いた緻密なオリジナル脚本の賜物。
ワクワクするようなエンターテイメントもいいが、じっくり見入るのもまた映画の醍醐味。

幼稚園の頃近くに教会があり、カトリック的なミサや懺悔をかじった事はあるが、それがどんなに人の心に根差すものか、幼児だったからか理解出来ぬまま。(幼稚園児のくせに、週何回かのお祈りが面倒臭いとませた記憶しか残ってない)
ましてや信仰心が薄いと言われる日本人にはピンと来ないかもしれない。
しかし、こう考えてみるとどうだろう。
尊敬し、信頼し、心酔してた人から受けた“いたずら”。
信仰という神父と信者の特別な関係、教会という絶対的善と思われている神聖な場。
それに覆い隠れ繰り返された、人の道からも神の道からも外れるおぞましい行為…。

酷い言い方かもしれないが、性的被害者たちはちょっとまともな精神状態じゃない。
でもそれは、心に深い傷痕を残され、狂わせられたからだ。
勿論、教会や神父の全てがそうではない。ほとんどが崇高な場であり、敬愛に値する人たちだろう。
教会や神父に限った事じゃない。ほんの一部…。
権力や絶対的立場を利用した偽善者どもが必ず居る。

教会や神父の悪事を一方的に訴えたものではなく、記者たちに焦点を絞ったのがいい。
彼らのやってる事は、被害者にまた悪夢を思い出させ、傷口を広げているだけかもしれない。
何年も前に投稿の訴えがあったのにも関わらず、その時は気にも留めなかった事実もある。
黙認したという意味では彼らもまた同じ…。
新局長の言葉が響いた。
我々は暗い道を歩いている。今、一筋の光が差した。
調子のいい偽善と思われても仕方ない。
でも、誰かがやらねば。
ここは我々の町。我々の手で真相を!
彼らが掴み取った真相は、“スクープ”とか“暴露”とか“一大スキャンダル”とか下世話なマスコミ言葉じゃない。
ただひたすらの“伝える正義”。

演者全員に賞を与えたい!
熱血記者マーク・ラファロはさすがの巧演。デスクと対立するあるシーンの台詞には胸を打たれた。
かつての鬼の記者で現名デスク、マイケル・キートンのカッコよさにしびれた。(キートンの最近の快進撃は嬉しい限り!)
ただ紅一点の華を添える存在だけじゃない、熱演披露のレイチェル・マクアダムス。
物静かだが口火を切ってくれた局長リーヴ・シュレイバー、最初は非協力的だが本当は熱意ある弁護士スタンリー・トゥッチ…メインから脇まで全員が名演!
実力派たちのアンサンブルも、映画鑑賞最高の旨味の一つ。
(緑の巨人に旧蝙蝠男に鋼鉄爪のあんちゃん…キャストにアメコミ関係者が多いが、これは別の言い方をすればアメコミ映画が実力派を起用している事になる)

ジャーナリストとマスコミでは似てるようで正しくはまるで違う。
ジャーナリスト→記者、マスコミ→媒体。
でも、“何かを伝える”という意味ではそう変わりはない。
どうもマスコミは、“マスゴミ”なんてディスり言葉があるくらいイメージが悪い。
確かに、下らないゴシップを漁るばかり。
人の愚行を伝えるだけが仕事じゃない。
見習えとも言わない。
その誇り高き“伝える力”を間違えるな。忘れるな。

有力候補の一つだったが、受賞はサプライズと言われた。
大方の予想は「レヴェナント」、もしくは「マッドマックス」の受賞を望んだろうが、結果的に本作が作品賞を受賞して良かったと思う。

近大