「事実に誠実であるというハードボイルド」スポットライト 世紀のスクープ SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
事実に誠実であるというハードボイルド
信仰の基盤となる教会の「悪」が暴かれる、というのは、おそらく信仰を持たない人には想像できない大きな衝撃だと思う。
映画の中に出てくる「数字」が衝撃だ。神父の6%が性的虐待をしている可能性ある → ボストンの神父は1500人だから、その6%となると90人? → 実際調べてみたら本当に約90人だった! の流れはびっくり。
そして、この「6%」は、全世界のカトリック神父全体に当てはまる可能性があり、実際にこのスクープが発表されてから、ものすごい数の性的虐待の訴えが発覚する。
カトリック教会は組織ぐるみで隠蔽していたのは明らかであり、まさしく世紀のスクープだ。
これは、神父が「禁欲」を強いられることが根本的な原因だとすると、教会の基盤そのものを揺るがしかねない(そもそも組織ぐるみで隠蔽している時点で、聖職者としての権利は失われているはずだが)。
このスクープは、「権力」に対する批判、隠れた犯罪や隠れた被害者を明るみにする、という意味で、ジャーナリズムの本質を体現したものだと思う。
映画は、この事実を事実であるという重みを損なわないように、うまく脚本にしたと思う。
チームのメンバーは皆プロで馬鹿なヘマはしないし、分かりやすい悪役や妨害工作のトラブルがあるわけでもない。
しかし、根気よく丹念に目標に迫るだけのことが、どんなに大変かということがよく分かる。
彼らの記者ということに対するプロ意識も見事だ。
日本の新聞ははじめに先入観を持って、ストーリーを作り、その筋書きに合う材料を集めてきて記事にする印象が強いし、そういう記事がしばしば問題になる。
しかしグローブ社のメンバーは「裏をとる」こと、一次情報を集めることに多大な労力を割いていて、それが記事にするということだし、当然だと思っている。「思いは熱いが、頭は冷静」なので、危なっかしさがない。
この事件が示唆することは無数にある。
最も大きいのは、このような大きなことが、あまりに長く見過ごされていたということ。グローブ社のメンバーが認めているように、実はこの事件は何度も小出しの記事になっていた。その意味で真のスクープではない。
そのような、実はその業界の中では公然の事実として知られているけれども、構造的な問題で手がつけられていないような話はかなりあるのだろう。
映画の登場人物では、ユダヤ人の新局長にしびれた。口下手で控えめな性格だが、深く静かにふるまい、考えることができる。
口八丁で自己アピールに長けていて、明るくて社交的なことが過剰に評価されがちな現代で、こういう人こそが必要なのだと思わせる。