「民衆を虫けら扱いした警察隊が、今ロシア相手に戦っている」ウィンター・オン・ファイヤー ウクライナ、自由への闘い ハベルさんの映画レビュー(感想・評価)
民衆を虫けら扱いした警察隊が、今ロシア相手に戦っている
NetFlixありがとう、こんなドキュメンタリーがあったなんて、そして世界に発信していただけたこの配信に感謝。
今、ウクライナで頑張っているゼレンスキー大統領の誕生以前、2013~14の厳冬、大規模な公民権運動から治安部隊との激しい衝突へと発展した93日間の最前線でのドキュメンタリー。第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた事実をまるで知ろうとしてなかった自分が恥ずかしい。とは言え今この時にNetFlix開いたら最初の画面に配して頂いたからこそこうして鑑賞出来たのですから、重ねて感謝です。
戦いは当然に一般市民VS警察機動隊との内戦、完全ロシア寄りの
ヤヌコーヴィチ大統領による悪政に反発する民衆蜂起、その真っ只中にカメラは入り決死の撮影を敢行、もう殆ど戦場の中に終始おかれる。当然に鎮圧隊としてのベルクトと呼ばれる機動隊もまたウクライナ国民。なのに信じがたい程の極悪非道、民衆を鉄のこん棒で滅多打ち、完全に殺人鬼と化す。体制の命令一つでこんなにも人ってのは残忍になれるものかと恐怖しかない。しかも相手は同胞ですよ、やがて鎮圧のためのゴム弾も言い訳で、実弾を平然と民衆に発砲。画面には本物の死体が無残にも写り込む、民衆側のみならずベルクト側の死体も。もはや胸がはち切れんばかりの激情が我が身を貫く。
全編すべて戦闘、これをゼレンスキーの時代になって回顧する夏の涼風吹く証人達の姿を挟み込み、刻一刻と変化する戦況を解説する構造。そして遂にヤヌコーヴィチが逃亡し、近々の大統領選挙開催が決められ、この戦いも終結する。喜びに安堵する民衆が誇らしい、けれど8年後にロシア侵攻なんて最悪の悪夢が待っていようなんて彼らは知る由もない、この無残。もとより西側に傾くことを恐れるロシア・プーチンの傀儡であったヤヌコーヴィチは、ロシアに亡命し当然にプーチンがかくまっている、今もロシアでぬくぬくと居る!
そして今、ベルクトは一旦は解体されたが、多分に隊員達は軍隊に吸収されたであろう、あの残忍な奴等がロシア兵相手に戦っているのは間違いない。この不条理が現実に起きている事実を受け止めなければならない。すべてはロシアの意向に振り回されるこの無力感。ウクライナはヨーロッパと連呼する国民の意向を完全に無視するロシア、地政学的に不運な立場ではあるが、決めるのは「民」のはず。狂人プーチンを阻止することの出来ない組織に人間の無力を痛感する。
いつかゼレンスキー大統領を映画で描く時が来たら、是非ともキャスティングはジェレミー・レナーにお願いしたい。
ベルクト隊員のうち一部の親ウクライナ派は新設されたウクライナ国家防衛隊に残り、多数派の親露派隊員はクリミアへ逃げてロシア治安部隊として活動中。また相当数がドンバスの分離主義勢力に加わったようです(クリミア部隊が今回のウクライナ侵攻に加わっているかは不明)