「もはや「アリス」でも何でもない蛇続編。 誰かこの映画の首を刎ねよっ!」アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
もはや「アリス」でも何でもない蛇続編。 誰かこの映画の首を刎ねよっ!
「ワンダーランド」に迷い込んでしまった女性、アリスの冒険を描くファンタジー映画『アリス・イン・ワンダーランド』シリーズの第2作。
父の遺した船「ワンダー号」での3年に渡る航海を終え、無事ロンドンへと帰還したアリス。次の冒険に向けて胸を躍らせていた矢先、先代の会長アスコット卿の息子ヘイミッシュの策謀により船を手放さざるを得なくなってしまう。
失意に打ちひしがれるアリスの前に、見覚えのある青い蝶々が現れる。それを追いかけ、再びワンダーランドへと辿り着いた彼女は、マッドハッターにある異変が生じている事を知る。彼の為、ワンダーランドの時間を司る存在「タイム」へと会いに行くのだが…。
○キャスト
アリス・キングスレー…ミア・ワシコウスカ。
マッドハッター/タラント・ハイトップ…ジョニー・デップ。
赤の女王/イラスベス…ヘレナ・ボナム=カーター。
白の女王/ミラーナ…アン・ハサウェイ。
アブソレム…アラン・リックマン。
製作はティム・バートン。
世界興収10億ドルを突破した大ヒット映画『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)。その6年ぶりの続編という事で、当然皆んな「待ってました!」と言わんばかりに飛び付くものだと思っていたが、意外にも世間の反応は鈍め。興行収入も伸び悩み、約3億ドルと前作の1/3程度にまで激減してしまった。日本興収は27.8億円で、近年の洋画離れを考えるとこれは悪くない数字の様にも思えるが、前作が118億円のメガヒットだった事を考えるとやはりお寒い。豪華キャストは引き続き出演しているのに一体何故?……って、まぁそんなん映画を観りゃ一発でわかるんだけど。
『1』のレビューで「ティム・バートンにかつての輝きはもうない」的な事を書いたんだけど、これは訂正。やっぱなんだかんだでバートン映画作るの上手いわ。
当然今作もバートン監督作品だと思い鑑賞し始めたのだが、開始5分も経たない内に「これバートンの作品じゃねえな」と気付く。ガワは確かにバートン的なのだが、ゴスへの執着と滴る変態性が皆無。内側がカラカラに乾いている。本作の監督はジェームズ・ボビンという『ザ・マペッツ』(2011)を作った人なのだが、相対的にバートンの凄さがわかってしまった。
原題は『Alice Through the Looking Glass』。これは原作「鏡の国のアリス」(1871)の原題「Through the Looking-Glass, and What Alice Found There」に因んでいる。……で、これの何処が「鏡の国のアリス」なんだ?鏡を通して不思議の国に行く、くらいしかその要素ないじゃん。一応最初の方にハンプティ・ダンプティとかチェスの駒とかが申し訳程度に登場するけど、後は完全にオリジナル・ストーリー。マッドハッターの家族を救う為、アリスがワンダーランドの過去へと遡ってゆく。あー、脚本家のリンダ・ウールヴァートンさん、あなた「アリス」とミヒャエル・エンデの「モモ」(1973)を混同してません?
そりゃ原作版「不思議の国のアリス」のお茶会でマッドハッターが「時間さん」について言及していたけど、あれってこういう事じゃねーからっ!!
一応前作では、ワンダーランドは実在するともアリスの空想世界(パラコズム)とも、どちらとも捉えられる描かれ方をしていた。しかし今作では、完全にワンダーランドという別世界があるとしか思えない。そこからしてもう「アリス」の映像化としては失敗だと思う。
そして、前作にはまだ多少なりとも存在していた気狂いさが本作からは全く消え、ただのファンタジー映画になってしまっている。荒唐無稽で現実世界の常識が通用しないのが不思議の国の筈なのに、そこに「歴史」とか「時間」とか「家族」とかを持ち出されるとめちゃくちゃ冷めてしまう。誰がマッドハッターの家族になんか興味があるんだよ!
そもそも不思議の国に「死」という概念がある事自体に凄い抵抗感がある。「首を刎ねよっ!」というのが赤の女王の口癖だけど、あの世界で首を刎ねられても次の日にはくっ付いてそうじゃん。「生」とか「死」とか「時間」とか、そういうのと無縁だからこそ「アリス」は150年以上も語り継がれる“タイムレス“な物語になったんだと思うんだけど。登場人物は皆んなマトモだし、どうやらウールヴァートンと自分とは「不思議の国」の解釈に天と地ほどの差がある様だ。
時間を支配するタイムという存在が今回のキモ。彼を演じたサシャ・バロン・コーエンはアリスの世界観にハマっていたと思う。まぁでもここもなぁ…。時間城に仕える機械人形たちとか、『美女と野獣』(1991)にしか見えなかったんだよなぁ。『美女と野獣』はウールヴァートンの出世作にして代表作な訳だが、いつまでその成功体験に縋ってんだっつーの。
このタイムから「クロノスフィア」というタイムマシーンをパクって時間旅行へと出かけるアリス。そのせいで世界が崩壊しかかってしまう。思うんだが、今回のお話って基本的に全部アリスが悪いんよね。「自立した行動力のある女性」というのを描きたかったのか知らんが、それってこういう事じゃねぇんじゃないかな…。
まま、ええわ。世界を危機に晒してもマッドハッターを救いたかったと。そういう事にしておきましょう。とにかくクロノスフィアを、早く元ある場所に返さないとヤバい。その事はアリスも承知している筈。だったらさ、マッドハッター一族が生きている事がわかった段階で、まずはスフィアをタイムに返そうよ。赤の女王の根城に殴り込みをかけてる場合じゃないだろうに。
今作の物語の問題点は、やはりアリスが身勝手に見えてしまうところにある。彼女の無茶のせいで赤の女王の横暴さが薄まってしまい、結果としてクライマックスである姉妹の和解もなんか焦点がボヤけた感じになってしまった。同じタイムトラベルをするにしても、例えばアリスが危険性を理解していなかったり、例えば赤の女王に唆されてその様な行動をとってしまったという風にしたりと、もう少しチューニングをする必要は絶対にあったと思う。
そういえば、コーエンとヘレナ・ボナム=カーターは『レ・ミゼラブル』(2012)でも夫婦役で共演してましたね。アン・ハサウェイも出演してるし、このキャスト被りに何か意味があるのだろうか?
一応フォローしておくと、前作であまりにも雑に処理されてしまった赤の女王にちゃんとした結末を用意した点は評価出来る。
後は吹き替え。タイムを演じた滝藤賢一さんは普通に上手い。芸能人吹き替えでは過去最高クラスだと思う。白の女王を演じた深キョンも大分良くなってる。前作は本当聞いていられないレベルで酷かったもんねー…。
まぁそんなところでしょうか。『1』の時点で意味の無い実写化だと思っていたが、今作ではそれをさらに下回る意味の無さで頭を抱えてしまった。前作最大の良さだった衣装の華やかさも無く、アリスは基本的にちんちくりんなチャイナ風ドレスを着たきり雀である。そんなダサい服装で中国の皇太后に謁見したら国際問題になるぞっ💦
視覚的に面白くない上に「アリス」の必要性が1ミリもない、完全に蛇足な続編。略して「蛇続編」。「マッドハッター…もう2度とあなたに会えない気がする」とか言ってたけど、当たり前だろっ!もう2度と会わないでくれ。誰か、この映画の首を刎ねよっ!
※R.I.P.アラン・リックマン。本作が彼の遺作となってしまった。これが名優の最期に相応しい映画だったのかはわからんが、とにかく氏の冥福を祈る。
