「2人のマジカル・ガール」マジカル・ガール goblinoonoさんの映画レビュー(感想・評価)
2人のマジカル・ガール
余命短い娘の願いを叶えようとする無職の父親、が話の発端です。
娘(アリシア)は父親に些細だが普段なら絶対に怒られるお願いをします。タバコが吸いたい、酒を飲んでみたい…父親が戸惑いながらそれらを与える…その事で彼女は自分の死期が近いことを悟るわけです。そして、さり気なく自分の夢ノートを父に目撃させる…魔法少女のコスチュームで踊りたい、と…。
方や微妙にサディスティックな精神科医の妻たる女(バルバラ)、少し情緒不安定な感じ。旦那の友人の来訪で最悪なセリフを吐いてしまい、睡眠薬を飲まされ昏倒しているうちに旦那は家を出ていってしまいます。そのショックで許容範囲以上の薬を飲もうとしたものの窓の外に嘔吐、それを偶然にも被ったのが先のアリシアの父親、1階の宝石店のウインドウを割って盗みを働こうとした矢先のことでした。
汚物を浴びて戦意消失の彼をバルバラは呼び止め部屋に招き入れ、なんだかんだで2人はなるようになって、所得格差のなせる事態か、男はバルバラとの不貞の事実を恐喝に使います。
旦那に不貞を知らたくないバルバラは金の工面のためにかつての知り合いを訪ねます。どうも高娼クラブの様で…昔のつてで体を使って金を工面し件の男に渡します。その際に全裸の描写があるのですが、全身傷跡だらけ…この高級SMクラブで精神科医の旦那と出会ったのかもしれないと憶測します。
コスチューム代金を手にした父親、さっそく物を取り寄せてアリシアにプレゼントするも、なにか不足物がある様子…魔法のステッキが足らない…お値段コスチュームの約3倍!?…そして父親は恐喝のおかわりです…
こうして物語はますます救われない方向に突入していくのですが、バルバラの関係者としてひとりの老人が登場します。最初は父親かと思われたけど、かつての教師と生徒の関係です。映画の冒頭にまずそのシーンが描かれます。どうやらそのシーンの成り行きでかつての教師はかつての教え子バルバラに暴行を働き、その贖罪に苛まれている様で以降何度かバルバラにコントロールされる形で犯罪を強要されている様な雰囲気です。このあたりがバルバラが本作のマジカル・ガールではないかとの意見を呼んでいます。バルバラの情緒崩壊もこの教師が発端ではないかと思われます。
一方のアリシアにも魔性を感じます。今や無職の父親に到底手の届かないプレゼントを間接的に要求しています。PCでお気に入りのアニメを観ている描写があるので、そのコスチュームの値段くらいは調査済みでしょうし。
このアリシアの最期、彼女は自身の終わりを覚悟したかの様でした。結果的に決死の我儘だったわけです。彼女のマジックは完遂した。
物語は、多くを語らず淡々としかし綿密に何かを匂わせつつ進みます。このあたりがもどかしく思う人もいる様ですね…自分は非常に堪能しました。この作品が監督デビュー作とは恐れ入りました。