「聲を形にして」映画 聲の形 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
聲を形にして
非常に評価の高い原作漫画はいつもながら…以下、省略。
ただただ山田尚子監督の新作が見たかった。
「けいおん!」は大好きだし、「たまこまーけっと」からの「たまこラブストーリー」が素晴らしかった!(その絶賛のほどについてはよろしかったらレビュー参照を)
ほっこりして、可愛らしくて、いつまでも見ていて癒されたい、日常系アニメの代表的監督。
しかし今回、それに期待したら大いに裏切られる。
胸にグサリと突き刺さり、えぐられ、激しく心揺さぶられた!
ガキ大将の小学6年生・将也は、転校生の難聴の女子・硝子をいじめ始める。
このいじめの描写が見ていてかなり嫌な気持ちにさせられる。
どんないじめも嫌なものだが、本作の場合、相手は難聴者、子供とは言え卑劣極まりない。
ちょっと普通と違う、変、気持ち悪い…それだけが理由。
子供は無邪気で、時に残酷。
いじめはエスカレートしていき…。
突然硝子は転校、その直前のある事件のせいで、今度は将也がいじめを受ける事になる。
はっきり言って自業自得。
いじめもれっきとした“罪”だと思っているので、その報いを受けるのは当然。いじめを行った奴は同じ苦しみを味わうがいい。
…が、いじめと同じくらい嫌な気持ちにさせられた。
別に将也に同情したという訳ではない。
将也一人に罪を押し付けたような周囲の手のひら返し。
少なからず加担した者、見て見ぬふりした者、顔だけ偽善の者、将也が張本人と決め付けた担任…お前ら全員は無罪だとでも言うのか。
周囲に心を閉ざしたまま高校生になった将也。勿論、友達は一人も居ない。
身の回りの片付けをし、母親にあるお返しをし、安易で愚かな道を選ぼうとするが未遂に終わり、ここからが話のメインと言っていい。
別の高校へ通う硝子を尋ね…。
虫のいい話と思われても仕方ない。
いじめをしてた奴がいじめを受けて痛みが分かり、赦しを乞うなど。
だが、「お前のせいで俺もいじめられてるんだぞ!」なんて最低の事を言わない将也に救われた。
自ら会いに行く勇気や覚悟も生半可では出来ない。
罪滅ぼしとか謝罪とか、そんなんじゃない。
ただ純粋に、伝えたい気持ち。
いつの間にか将也に共感しっ放しだった。
かつてのクラスメイトと再会する。
望んだ相手もいれば、偶然成り行きで。
皆で仲良く遊ぶが、何事も無かったように振る舞うなど到底無理。
必然的に話題はあの時の事に。
将也がある事をぶっちゃけ、再び気まずくなる。
これは古傷を開くようなものだが、言うべき事だと思った。
結局は皆、何も変わってない。
クラスメイトも、将也も、硝子も。
あの時の事が原因で、皆が心に深い影を落とした。傷付いた。
一体誰のせい…?
自分のせいと決め付け、いつぞやの将也と同じ道を選ぼうとする。
それは愚か過ぎる。身勝手過ぎる。
皆がさらに傷付くだけ。癒えないほどに。
そこで全てが終わってしまう。
まだ、伝えてないじゃないか。
まだ、伝わってないじゃないか。
言うべき事を。伝えてなくてはいけない事を。
好き、ごめん…想いや気持ちの聲を形にして。
原作既読者の意見では、エピソードの登場人物の描かれ方も随分とカットされているらしい。
原作未読者でも確かに省略されてるなと感じた部分はあったし、何人か描かれ方に深みが足りない登場人物も居た。
でも、話の展開に違和感や不自然は感じなかったし、あくまで将也と硝子に焦点を絞っているが、周囲の登場人物も良かった。
硝子を人一倍気遣う結弦“少年”、将也と同じく孤立しているが心開けばナイスな人懐っこい性格とヘアの長束くん、特に印象深かったのは植野。
一見長い黒髪の美少女だが、言わば敵役。
硝子にもはっきり物言うが、彼女の発言は誰も露に出来なかった偽善ナシの本音。
それを突かれるから、彼女の発言は厳しく胸に突き刺さる。
いじめ、贖罪、葛藤、悩み、苦しみ…デリケートなテーマを扱いながら、その上で本作は、陽と陰の両面を描いた青春ストーリー。
その一瞬一瞬を、息遣いを、見事に掬い上げる。
山田尚子監督の手腕は更なる高みに達したと言えよう。
今年を代表するアニメ映画は「君の名は。」「ズートピア」だろうが、個人的には本作!
いや、それ所か、年間5本指にだって入りそう!
にしても、山田尚子監督って可愛いよね。