「生まれ持った宿命のある者同士」溺れるナイフ movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
生まれ持った宿命のある者同士
無防備無意識な魔性の女の子、夏芽。
お化粧なくても美人べっぴんに産まれた宿命として、
周りの男性の気を乱す。
本人には自覚がないだけに、田舎に引っ越そうとなんだろうと、危なっかしく、関わる者全員を狂おわせていく。
引っ越した先の神事を司る長の家系の息子、コウちゃんでさえ、夏芽にツンツン接しながらも、気になって仕方ないツンデレなの丸出し。
コウちゃんは家を継いで火祭りの神事でお面を作る伝統文化を背負っていく使命と、中学生として自分らしく生きていきたい狭間で揺れていたところに、夏芽が引っ越してきたようだ。
一気に気になるが、逆に夏芽も雑誌に出ていた自分をちやほやしてこないコウちゃんにどう見られるのかばかり気になり、一気に惹かれていく。
2人は急接近し、素直でないコウちゃんを大好きな夏芽として仲良く過ごしていたが、夏の火祭りの日、お祭りに紛れ込んだ夏芽のファンが夏芽を騙して車に乗せ、レイプされそうになってしまう。
異変を察知したコウちゃんは祭りを抜けて夏芽を見つけ出すが、後ろからレイプ犯に殴られる。
コウちゃんのおかげで、夏芽は強姦未遂で済み、致命的な暴行は免れたが、世間やネットではレイプされた扱いになっていて、周りからそういう目で見られるうちに高校に入っても地味に、暗く過ごしていた。
コウちゃんも、夏芽を守りきれなかった罪悪感に駆られて、目の前に夏芽がいると常に辛いから別れを選択し、夏芽をあえて突き放し、不良とつるむようになっていた。
多感な時期のコウちゃんにとって、大好きな夏芽を自分の手で触りたいその先に進みたい気持ちもありながら夏芽を大切にしたいから我慢していたところに、レイプ犯があらわれ、
・全力を尽くしたが大好きな人が傷付く結果になり守りきれなかった弱さ
・大好きな人といると求めたくなってしまうが、犯人と同じ事をするなんてという、夏芽を更に傷つけたくない葛藤
に日々苛まれていて、夏芽が大切だから苦悩を抱えていたことだろう。
でもコウちゃんが離れても夏芽のもとには、友達の大友、カメラマンなど様々な男性が寄ってくる。
みんな夏芽を好きなだけだが、その先に触れ合いを求めるのは人間として至極普通のことなのだろうか?
カメラマンに至っては、あえてレイプの題材の脚本を渡してきてその内容を撮りたい、「おまえってそういう変態じゃん」とまで言い出す。
レイプされかけたのは本人のせい?レイプされたような女の子は他の男性からもレイプしても良い人としてみられてしまうのだろうか?
純粋に人を好きになる延長に、男性は女性を押し倒したいという感情が湧いてくる。
女性も、心を許せる好きな相手であれば、構わないと思うもので、色々あった夏芽もコウちゃんに遠巻きにされるのは最も辛く、コウちゃんには触られたいとずっと思っている様子。
大友お陰もあり学生生活に明るさを取り戻してきたところで、雨の日にコウちゃんと再会。
私に触ってよみたいな事を言い出し、夏芽はコウちゃんと身体を重ねたが、そのあとコウちゃんはもう会わないと言い、夏芽が東京で芸能活動をする踏ん切りがつくように、あえて突き放す。
泣きながら家に帰る夏芽と、一生懸命励まそうとする大友、大友に別れようと言う夏芽。
ええ?!大友と何もないとはいえ付き合っていたの?
ならいつも心を占拠するコウちゃんがいるのは大友も知ってのうえのことでただでさえ残酷なのに、コウちゃんとそういう関係になるのはダメじゃない?
一気に夏芽のけじめのなさに動物を感じてしまう。
しかしコウちゃんのお陰で、世間の噂を跳ね除けて芸能をやりたい映画に出たい気持ちに勇気を出して、上京を決めるのだが、次の夏休みでまた、レイプ犯が現れる。
未遂だから捕まらずまだ動ける状態だったの?!
よくわからないが、みんなキツネなのに天狗のお面をつけた人間に級友カナが気付き、コウちゃんに知らせたお陰で、またもカナちゃんの目撃でピンチの夏芽は未遂で助かる。
気を失い夢か現実か朦朧とした夏芽だが、今回は祭りの松明を持ってコウちゃんが駆けつけ、レイプ犯を殴ってくれたが、殺してと言う夏芽に、殺しちゃだめと叫ぶカナちゃん。レイプ犯が夏芽と報道され一生世間の記憶に夏芽と残るために夏芽のそばで自殺するなど地獄絵図だった。
結局コウちゃんのナイフでレイプ犯が自殺し、
夏芽とは無関係とするために、レイプ犯の事もナイフも、コウちゃんが海に沈めたようだ。
犯人の死に異論はないが、
コウちゃんが尻拭いの罪まで背負うのはおかしい。
カナちゃんは、夏芽が元凶とコウちゃんに言ったりもしていたが、夏芽にも、コウちゃんともう会わないでと言う。密かにカナちゃんは夏芽が引っ越してくるずっと前から、コウちゃんを好きだったのだろうし。
夏芽が元気がなくても、高校デビューし楽しそうなカナちゃんは夏芽にとってフレネミーみたいな感じだろう。
夏芽は結局上京し無事女優として賞を獲るまで輝けた。
心にはいつも、コウちゃんがいて、芝居の相手にもコウちゃんを重ね、コウちゃんとの美しい思い出を抱いて、女優として出す結果をコウちゃんに捧げていくつもりで頑張るようだ。
いやいやいや、コウちゃんも大友も、気の毒すぎる。
悪いのは全てレイプ犯なのだが、
夏芽が無防備に近づく事で、近付かれた男はみんな、夏芽を追い求めてしまうようだ。
世間が見たくなるような可愛い女の子は、周りがほっとかないと言うが、男性からの人気は紙一重に危険も付き纏うのだろう。
身体を守ることに注力しなければならないのは決して夏芽のせいではないのだが、危機感を持たないといけないし、親の警戒や育て方には甘さを感じてしまった。
親だから子供を守らないとと言うのもわかるが、
子供がやりたいなら応援するしかないと父親が話している通り、じゃあどこまでもいつまでも親がガードにつきっきりでいられるわけではないのだけど。
コウちゃんがくれたナイフを夏芽は護身用にしていたが、それも最後は凶器になってしまった。
悪意なくとも、
男性性の持つ破壊性、
女性性の持つ破壊性を引き出す魔性性
に考えさせられ、
同意のない関係性を避けるために、
何段階前から危機感を持つのが適切なのか、
考えさせられた。
幼児や小学生でも被害に遭う昨今、
子供達に警戒を教えないといけない社会。
ひどい話だな。