「危うい青春映画」溺れるナイフ hhelibeさんの映画レビュー(感想・評価)
危うい青春映画
小松菜奈と菅田将暉は、若手役者の中でも抜群にスクリーンが似合う。
演技がどうこうじゃなく、存在自体に「スクリーンで見る価値がある」と思わせてくれる強さがある。
この映画はそんな2人の、歌舞伎で言うところの「仁」を活かし切った役柄で「今の小松菜奈と菅田将暉を最高の状態でパッケージした」というそれだけでも映画として充分に価値があると思う。
特に小松菜奈は「渇き。」で鮮烈に映画ファンの前に姿を現したためどうしてもクセの強い役のイメージが強く、そうでない役の時には「他の女優さんでも代替可能だな」と思ってしまうことが多かったが、今回は悩んだり恋したりする等身大の役柄ながら、絶対に小松菜奈でなければいけないという必然性があった。
それと、ナツメちゃんに恋する「田舎の学校で学年イチかっこいい、普通に就職して結婚していいパパになりそうな少年」といった風情の大友君がとてもよかった。
演じてた重岡大毅君、これからいろんな作品で活躍しそう。
「いい人だし、一緒にいてホッとするけど、この人と一緒にいたら私は「その程度の女」で終わってしまう」というナツメの気持ちが大友君のリアルさによってくっきりと浮かび上がっていたし、この2人のシーンではいつもその「次元の違い」が表れていて切なかった。
それにしても、ものすごくバランスの悪い映画だった。
「うわー見てられない、お子様映画かよ」と思ったシーンもあれば、「なんて繊細で美しいんだ、これは名作」と思ったシーンもたくさんある。
結局、これがいい映画なのかそうでないのかはよく分からないが、このバランスの悪さは、そのまま主人公2人の危うさと重なっているようにも思えた。
バランスのいい青春なんてない。
危うくて、痛くて、フラフラしてて、いきなり泣いたり、いきなりキレたり、いきなり綺麗になったり。
そんな青春の「全然きれいにまとまらない感」がそのまま焼き付けられたような2時間だった。
2人が惹かれ合う過程がよく分からないとか、ラストの展開どうよ?とか色々とひっかかる所もあるけど、このバランスの悪さ、危うさ故に、美しくまとまった映画よりもずっと、私の中に古傷のように残り続けるような気がする。