「心臓を殴られるような思いだった。」ヒトラーの忘れもの 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
心臓を殴られるような思いだった。
心臓を殴られるような思いがした。戦時中、ドイツ軍がデンマークの海岸に残した地雷を、回収する為に招集されたのはドイツの少年兵だった。戦争の爪痕を、まだ幼い少年たちが命を懸けて(そして実際に失われていく命も少なくない)償っていく作業。戦争というものの不毛さを、ありありと見せつける映画で、「胸が締め付けられる」なんて言葉では足りないほど。心臓を殴られるような思いだった。
映画は特別な物語性を付加することなく、実際の少年兵たちの様子を再現するかのように写実的にその様を映し出していく。「軍隊」やら「兵士」たちの、浅ましいまでの従順さや愚かしい程の服従を見せつけながらも、その奥にある少年たちの無邪気さ、軍曹の人間味が顔を出し、しかし戦争の凶器と狂気は、人間がふと息をついた瞬間に、暴音を立ててその衝撃と残酷さを示す。この映画でも、地雷が爆音を立てるのは人間(及び観客含め)がふと気を緩めた瞬間だ。そしてその都度、戦争の恐ろしさ、現実の惨さ、そして戦争にまつわるすべてに対しての愚かしさを感じずにいられなかった。
本当に、この映画を観ていると、戦争がいかに不毛で、徒爾なだけならまだしも、その残骸があまりにも惨たらしいものだということを苦しい程に感じる。この映画には、意図して殺し合う人は出てこない。ましてやまだ幼い少年たち。彼らが、戦争の残り香を嗅いでは次々に死んで逝く姿に、それでも戦争を止めない理由が理解できないと改めて思った。
この映画が描くのは、終戦後の物語だ。でも戦争が終わった後も、まだ戦争は続いている。日本だって、70年前に終戦したけれども、今なお、戦争の残骸は残っている。終戦した後で、いつになったら本当の意味で戦争は終わるのだろう?とこの映画を観ながら思ったし、もし再び戦争を起こしてしまったら、その戦争が(終戦という意味だけでなく本当の意味で)終わるのは何百年後になるんだろう?と思うと、やっぱり戦争なんてするべきではないと、強く思った。
反戦映画ではあるけれどただ反戦を唱えるというよりは、ドイツとデンマークが手を組んで、世界に向けて歴史に向き合った真摯な戦争映画という気がして、そこには「もう二度と同じ歴史を繰り返さないぞ」という両国の強い意志のようなものを感じた。