「メタファーの定石」断食芸人 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
メタファーの定石
昭和四十年代のカストリ映画っぽい、そんな匂いのする作品。多分あの頃はこういったメタファーや揶揄、エログロナンセンス、そして社会を切り取るような題材が数多く制作されただろうし、またそんな気概に溢れた映画人が多くいたのだろう。そんな連中が屯していたであろう新宿ゴールデン街が先日火事になり、たまたまというか縁みたいなものを感じつつ鑑賞(ゴールデン街行ったこと無いんだけどねw)
粗筋は、一人の男が商店街の一角で座り込みを始めるところから、段々と周りを巻き込んでいくストーリーである。幾つかの有名な小説のセンテンスを抜き取って構成されているようである。
で、感想はというと、まぁまぁ読解できるレベルのメタファーの数々を散りばめながら、最後は身も蓋もないってオチをいれていく作りに、パターン化されてものへの郷愁が鼻を擽るような感じである。ガッカリ感とでも安心感と、適度の哲学的な雰囲気を味わえるような、いい感じのチンピラ映画感に酔えるのではないだろうか。
適度に裸も出るし、レイプもあって、でも、救済されたいと願う懇願もあり、宗教観が漂い始める。まるでイエスのような雰囲気を醸し出す主人公、否、主人公というよりも物語そのものの主軸になっているから、周りの登場人物が物語を紡いでいくような構成である。あくまでも主人公の男は傍観、又は巻き込まれても一切声を上げない。その周りで行われる出来事が正に日本の縮図のような痴態が繰り広げられる。見世物小屋の社長(芸能プロダクション又は怪しいコンサルタント)、破廉恥な女子高生(性の乱れ)、主人公や周りの見物人を見張る兵士(政府)等々・・・
そして40日の断食が達成され、人々がこの世の救済を期待したのだが、日常は変わらず急速にこの男の関心は薄れてゆく。
50日が過ぎる頃、周りの鉄格子が解かれ、最後にこの男に尋ねる。なんでこんなことをしているのかと。初めて男は口を開く。「食べたいものが無かったから。しかしやっと食べたいものがみつかった」おもむろにパンツを脱ぎ、自らの排泄物を食べる男。その答えに尋ねた兵士は銃で男を撃ち殺す。事情を知らない傍観していた女が持ってきたモノは、ムンクの叫びの粘土細工・・・
色々と考えさせられるようなセンテンスの数々である。多分、観終った後の感想に花が咲くような映画なのだろう。