劇場公開日 2016年6月18日

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「戦争と映画監督の業」シリア・モナムール ローチさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0戦争と映画監督の業

2018年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

難しい

市民の手によって撮影された内戦の惨状を数多く用いて作られた作品なのだが、主人公はパリに亡命していたので、その内戦に巻き込まれていないという点が本作のポイントだ。

主人公は映画監督で、表現者である。祖国の悲惨な現状に自分だけのうのうと助かっている後ろめたさとこれだけすごい映像が溢れているのに、それが自分の手によるものでないことへの、表現者としての嫉妬心が入り交じる。戦争の悲惨さと表現者の業が相合わさって描かれる、奇妙な作品なのだが、当事者と当事者になれなかったものの断絶をここまで見事に描いた作品はなかなかない。

映画監督ならすごい映像を撮りたいと思うのは、当然だ。戦場カメラマンも動機の全てが社会正義ではない。戦場でしか撮れない「すごいもの」のために命をかける。

だが今、シリアで「すごいもの」を撮っているのは市民なのだ。主人公は、映画監督としての敗北感と、シリア人として故郷を憂う気持ちに引き裂かれている。

杉本穂高