金メダル男 : インタビュー
内村光良が挑む“映画の笑い”「逃げ場がないことは覚悟のうえ」
内村光良が、監督第3作「金メダル男」を完成させた。芸人として確固たる地位を確立している内村が今回挑むのは、“映画の笑い”。「言い訳、言い逃れができない。逃げ場がないことは覚悟のうえでした」――そんなプレッシャーのなか、「あらゆる分野で一等賞をとりたい」という男の数奇な人生をつづるコメディを作り上げた。全編に笑いを盛り込んだ作品ながら、主人公のひたむきな生きざまからは、人生の悲哀と可笑しさがにじみ出ている。芸歴31年、プライベートでは2人の子を持つ父となった、今の内村だから描ける温かな笑いに満ちた一作だ。(取材・文・写真/編集部)
本作は、2011年に上演された内村の一人舞台「東京オリンピック生まれの男」をもとにしている。小学校時代に徒競走で金メダルをもらったことをきっかけに、さまざまな分野で1番になろうと執着する主人公・秋田泉一の半生を描く。内村は、「ピーナッツ」「ボクたちの交換日記」で監督としての経験を積むなかで、自らの“ホーム”であるコメディへの興味が沸いてきたという。
「前作『ボクたちの交換日記』を撮った時に長澤まさみちゃんが小出恵介くんをひっぱたくシーンがあって、そこがすごくうけたんですね。それで、映画の笑いってテレビや舞台と違うなと感じて。次は映画の笑いに挑戦したいという野望がふつふつと沸いてきた。3作目が撮れるならコメディに挑戦したいと」。そうして完成した作品は「一番自分の色が出たと思う。好き嫌いはあると思いますが、内村の笑いはこんな感じですというのを出している」。
内村が身ひとつで演じ切った舞台版に対し、映画版は知念侑李、木村多江、ムロツヨシ、土屋太鳳、平泉成、宮崎美子、笑福亭鶴瓶、清野菜名、長澤といった豪華俳優陣が結集している。泉一の青年期を演じた知念には、内村自ら笑いの英才教育を施した。「アイドルの彼をお笑いにしなければいけないので、顔芸をね(笑)。劇中に出てくる歌舞伎の顔とか。水泳で息継ぎをする時に、隣のコースの女子を見る恍惚に満ちた表情とか。あれらは全て1回やってみせた。知念くんは、秋田泉一のように習得能力が高い。中盤以降は、好んでお笑い的なことをやってくれました」。
舞台版と映画版の大きな違いのひとつが、木村が演じた泉一の妻・頼子というキャラクター。登場シーンが大幅に増えているが、その意図を「舞台は菩薩さまみたいな、控えめな女性像。それを面白いキャラクターに変えました。多江さんだから出来るだろうと思って、どんどん当て書きしていった。舞台にはなかった不眠不休ダンスと漫才を追加したり。『木村多江で笑ったな』ってお客さんに言われたかった」。
そして、多くのキャストを起用する映画版だからこそ際立つのが、泉一の人生に関わり、通り過ぎていくたくさんの人々。舞台版では泉一(内村)の語りのみで登場したキャラクターたちが、個として存在感を発揮することで「人とのつながりなしに人生は成り立たない」という普遍的なメッセージが浮き彫りになり、そこにちりばめられた笑いに味わいや説得力が加わった。
「50年生きていますからね。20、30歳じゃあ撮れなかったと思います。あとはやっぱり子どもが出来たから、泉一に子どもが生まれた以降の展開は書けたんだと思います。結婚もそう。この年になったから書けた作品」。そのうえで、「笑っているけど泣いているみたいな瞬間ってあると思うんです。幸せすぎて、笑っているんだけど気がついたら一筋涙が流れているとか。そういったことを、ちょっとでも感じとってもらえればいいかなと思いますね」と“映画の笑い”に込めた思いを語った。