劇場公開日 2025年4月4日

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「正義を貫く愚直な中年刑事〈デカ〉の奮闘」ベテラン 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0正義を貫く愚直な中年刑事〈デカ〉の奮闘

2025年4月6日
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鑑賞方法:映画館

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興奮

1週間限定カムバック上映にて。

【イントロダクション】
熱血刑事達と凶悪な財閥の御曹司との対決を描く。韓国で実際に起きた財閥の子息らの傍若無人な振る舞いの影響も相まって、果敢にタブーに切り込んだ本作は韓国での観客動員姿1,300万人を記録した。
主人公、ソ・ドチョル刑事に『ソウルの春』(2023)のファン・ジョンミン。財閥の息子、チョ・テオに『バーニング 劇場版』(2018)のユ・アイン。監督・脚本には『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021)、『密輸1970』(2023)等の話題作を手掛けたリュ・スンワン。

【ストーリー】
広域捜査隊所属の熱血ベテラン刑事のソ・ドチョルは、気性が荒く家庭を疎かにしがちだが、硬い信念を持ちどこまでも犯人を追いつめる。

ドチョルは、昇進を望む愚痴り屋のオ・チーム長、紅一点のミス・ボン、肉体派のワン刑事、若きユン刑事らチームと共に、中古車を狙った韓国とロシアの犯罪組織捜査にあたっていた。
そんな中、彼はロシアのバイヤーを釣る為の港への窃盗車両のコンテナ輸送の際、捜査に協力してくれたトラック運転手のペと仲を深め、名詞を渡していた。

無事、窃盗団を一網打尽にしたドチョルは、昇進確実だとすっかり浮かれ調子。自身が監修を務めたドラマの打ち上げパーティで、シンジン産業の御曹司チョ・テオと出会う。テオのドラ息子らしい傍若無人ぶり、薬物使用者特有の鼻すすりの仕草に怪しさを感じつつ、「罪は犯すな」と忠告する。

後日、ぺ運転手はシンジン産業の下請け会社からの理不尽な解雇宣告を受け、デモ活動を行っていた。会社役員が検察からの出頭命令を受け、社が窮地に立たされ、自身も遺産分配で兄姉達に遅れを取ると危惧していたテオは、外でデモ活動を行っていたぺ運転手と彼の息子をオフィスに招く。
テオは部下に命じてオフィスの監視カメラの録画を停止させ、ぺ運転手と下請け企業のチョン所長を引き合わせる。ぺ運転手の息子への社会勉強と称して、「未払い金は実力で稼がないとな」と、彼らを殴り合わせる。チョン所長から暴行を受け、激しく負傷したぺ運転手に、テオは未払い金と治療費、少しばかりの上乗せ金を渡して追い返す。

ドチョルに連絡が入ったのは、ぺ運転手が息子をタクシーで帰した後、テオの会社の非常階段から投身自殺を図った後だった。幸いにもぺ運転手は一命を取り留めたが、意識不明の重体であった。所轄署が自殺として事件を処理しようとする中、ドチョルはぺ運転手の息子からオフィスでの一件を聞く。

ぺ運転手の自殺に疑念を抱いたドチョルは、独自にシンジン産業への調査を開始。テオの側近であるチェ常務の策略によって、金や権力による様々な圧力、妨害行為を受けながらも、ドチョルは信念を曲げず捜査を続ける。

【感想】
ソ・ドチョル刑事の熱血中年オヤジの執念の捜査っぷりが、観ているコッチまで熱くさせてくれる。金や権力に屈することなく、己の信念を曲げずに捜査する姿は、ベタだが応援したくなる。彼を支えるチームメンバー、果ては上司までもが、何だかんだ言いつつも、最後は必ず協力してくれるという安心感も良い。上司が頼もしいというのは、テオら財閥側がとことん権力による支配構造で成り立っている事と対照的に描かれ、より一層心強く映る。

シリアスなストーリー展開とキレの良いアクションで魅せてくれるが、随所に挟まれたコミカルなやり取りの数々が絶妙なスパイスとなっており、思わずクスリとさせられる。
広域捜査隊と所轄署との対立、仲間や上司とのコミカルなやり取りは、日本の『踊る大捜査線』シリーズを彷彿とさせるが、TVシリーズでこそ輝くあちらよりも、こちらは映画映えした作りとなっている。

「後悔するぞ」と脅すチェ常務に対して、ジュヨンの「あの人と結婚して後悔してる。これ以上後悔することなんてない」と言ってみせた姿に痺れた。お金と高級バッグに一度は心揺らいだ自分を恥じ、悔しさから署まで訪ねてくる姿もグッと来る。

ラスト付近でサラッとカメオ出演するマ・ドンソクに驚く。あれだけ僅かな出演時間にも拘らず、しっかりと存在感を残していくから面白い。ともすれば、彼がつけ上がったテオに最後の鉄槌を下すのかと期待もしたが、今回は大人しく下がっていく。

テオ役のユ・アインの演技が良い。生意気で世間知らず、傲慢で他者を顧みない性格は絵に描いたようなドラ息子。親の金と権力で好き放題する悪道っぷりが実に不愉快(褒め言葉)。クライマックスで次第に追い詰められていく様、その果ての高揚感から箍が外れて暴れ回るサイコパス感も良い味を出している。

そんなテオに振り回されるチェ常務役のユ・ヘジンも良い。上司の為に知恵を回す中間管理職の涙ぐましい努力が、彼を憎めない悪役として魅力的にしている。

【総評】
正義を貫く王道の熱血刑事の主人公、脇を固める個性的なメンバー、狡猾な手段で立ちはだかる敵役とクライマックスでの形勢逆転。刑事モノのエンターテインメントとして必要な要素を揃え、それらが絶妙な塩梅で展開されるアンサンブルが心地良い。

公開を目前に控えている続編にも期待したい。

緋里阿 純