「人生失ってしまったものはそう簡単には取り戻せない。だからこそ…」ロスト・イン・マンハッタン 人生をもう一度 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人生失ってしまったものはそう簡単には取り戻せない。だからこそ…
ホームレスとなってしまった男を描く日本未公開のドラマ。
演じるは、リチャード・ギア!
リッチでハンサムな役のイメージが強いリチャードがホームレス役なんてミスキャスト…と思うなかれ。
無精髭、汚れた顔や服、しょぼくれ感、抑えた演技で悲哀を滲み出し、これがなかなか!
撮影中、本物のホームレスと間違われたとか。
リチャードのキャリアの中でもかなりの名演だと思う。
かつては家族も仕事もあったものの、ホームレスに。
大抵この手の作品の場合、何故ホームレスになったか回想形式で語られるものだが、一切描かれない。
街中をさ迷う様を淡々と綴る。
そこから浮かび上がるのは、ホームレスの厳しい現状。
何処へ行っても邪魔者扱い。「出ていってくれ」「お引き取り下さい」…。
今ここに存在してるのに、誰にも存在を認められていない。
ホームレスに衣食住を提供する施設に厄介になるも、施設員に一日中見張られ、狭い部屋に何人も押し入れられ、まるで刑務所。
国からの援助を受けようも、身分証明出来るものや社会保障番号が必要とか、コイツら何言ってんだ? そういう満足な保障や生活が受けられてたらホームレスになってる筈ない。
施設で知り合った男がある日突然居なくなった。ホームレスを援助する連合で彼の事を切り出すも…、結局自分の身の保護を求める。気になり、心配はしても、やはり他人より自分。
社会制度の不条理やその社会から弾かれた者たちの厳しい現実は万国共通。
主人公がホームレスになる前の過去は描かれないが、何があって今こうなかったか口では簡単には語られる。
妻を亡くし、娘も居たが、ここ10年は人生をさ迷ってるように生き、遂にはホームレスに。
娘が居るのだ。
しかし、娘からは嫌われている。軽蔑、嫌悪されてると言ってもいい。
「あんたのクソみたいな人生にこれ以上関わりたくない」…これが娘が実の親に対して言える言葉だろうか。
主人公はホームレスになってもプライドが高い面が見受けられる。
自分でも言っていたが、父親らしい事を全くしてやれなかったクソ親父だったのだろう。
悲哀と共に、自分のせいでこうなってしまった侘しさをも突き付ける。
“人生をもう一度”なんて副題がちゃんちゃらおかしい。
主人公がホームレス仲間と心温まる交流があって、自分自身を見つめ直して、娘との関係を取り戻して、ホームレスから抜け出して人生再出発…なんて、そんなステレオタイプの甘い話じゃない。
最後にもう一度娘に会いに行くが…、拒絶される。
人生、失ってしまったものは、そう簡単には取り戻せない。
シビアに見つめ、だからこそ人生は尊い。
が、最後の最後…
娘に拒絶され、街中に姿を消す主人公の後を、娘が追いかける。
その後どうなったかは分からない。やはり拒絶したままか、手を差し伸べたか。
絵に書いたような“人生もう一度”より、微かに希望を感じさせる終わり方が良かった。