「多様な価値観に翻弄される人々を優しく見つめる美しいドラマ」タレンタイム 優しい歌 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
多様な価値観に翻弄される人々を優しく見つめる美しいドラマ
アディバ校長が心血を注ぐ高校の学内イベント”タレンタイム”はオーディションで選考された7人の生徒がしのぎを削る音楽コンクール。選ばれたのはピアノと歌を得意とするロマンティストの女子ムルー、二胡を演奏する優等生カーホウ、ギターの弾き語りで挑む転校生ハフィズら。ムルーはコンクール会場への送迎を担当する無口なイケメン青年マヘシュが気になってしょうがないし、カーホウは転入生ハフィズに学内成績1位の座を奪われて傷つき、ハフィズには脳腫瘍を患う母がいる・・・生徒達が抱える様々な葛藤が宗教の違いや貧富の差と綯い交ぜとなる中、タレンタイム本番の日がやってくる。
多彩な文化が共存するマレーシアという多民族国家が抱える社会問題を背景に様々な想いを抱え苦悩する人々を優しく見つめる作品。登場人物たちの会話ひとつを取っても様々な言語が入り混じり、映像の中にも多様な宗教観が滲んでいて複雑さに眩暈を憶えるほどですが、アディバ校長に密かに思いを寄せる教師がやたらと放つオナラやオーディションに紛れ込んだメガネ男子の奇妙なダンスなどのシュールなギャグがスパイスとなっているし、タレンタイムで披露される楽曲が実にキャッチ―で美しく辛辣なテーマを扱いながらもあくまで軽妙でロマンティック。温かい涙の向こうに静かに訪れる終幕がじんわりと胸に滲みる傑作です。監督はヤスミン・アフマド、残念ながら本作が遺作。ウィキペディアによると自身が最も影響を受けたのがチャップリンということで確かに辛辣な風刺をギャグで彩る作風はそういうことかと膝を打ちました。
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