「インスタントな愛は高く附(つ)く」後妻業の女 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
インスタントな愛は高く附(つ)く
後先短い老人の妻となりその財産を巻き上げるという
“後妻業”。それに騙し騙される人々の姿をユーモアと
ペーソスたっぷりに描いたドラマ。
見所は、後妻業の凄腕サヨコを演じた大竹しのぶと
その元締・柏木を演じた豊川悦司のハッチャケ演技。
理性がポーンと飛んだような役を演るとメチャクチャ
怖面白い大竹しのぶは相変わらずの芸達者ぶりだが、
今回はトヨエツの舌好調な詐欺師っぷりもグッド。
パーティの口上からナレーションまで舌が回る回る!
「あたしィ、被害者ですねん……」
「かなわんなぁ~」
のコントスレスレのラストにも大笑いで、とびきり
毒の強い夫婦漫才を見ているかのようだった。
ピリピリ美人な尾野真千子、ダーティヒーローな永瀬正敏を
筆頭に、脇を固める豪華キャストも情けなくてユーモラス。
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前半で『憎き詐欺師どもを追い詰めろ!』な展開に転ぶかと
思いきや、そう単純にはいかないシナリオも個人的には好印象。
詐欺師2人が荒稼ぎする様は憎たらしくも笑えるし、
狡猾な詐欺師がもっと狡猾な詐欺師に食い物にされたり、
清廉潔白に見える人間も実はそれなりに汚かったり、
騙し騙される人々の泥仕合っぷりが可笑しくも悲しい。
サヨコも柏木も、まさか自分が騙される側に
立たされるなんて考えもしなかったんだろうね。
自分が百戦錬磨の悪党だと自覚しているなら尚更。
騙された側も、騙した側も、愛されたい・寂しさを
紛らわしたいという思いに駆られた途端にコロリと
騙されてしまう所は結局変わらなかった訳で。
誰も彼もカネに狂わされるものなのか。それとも、カネで
手に入りそうなインスタントな愛情に狂わされるものなのか。
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明確に描写されている訳ではないが、サヨコはきっと
過去にも手酷い裏切りを受けてきたのだろうと思う
(詐欺被害とかじゃなく、もっと理不尽な何かという気がする)。
人を信じて裏切られるなら最初からこちらが裏切ってやる。
そんな風にどこかで吹っ切れてしまった人間のように思う。
どれだけ手に入れても飽き足らず満たされない。
実の息子とは大金小銭を巡って口汚く罵り合うだけ。
あれだけ痛快に稼いでいても彼女はまるで幸せに見えない。
サヨコは一体何が欲しかったんだろう?
あれだけ人を騙し続けてきた女が、あれだけアッサリ
騙されるほどに憧れたものって何だったんだろう。
自分の知らない事を知っていて、喜ばせる術も知っていて、
始終笑わせてくれる、そんな誰かと豊かに余生を過ごすこと?
彼女も結局、普通の人々が憧れるような、
人並みの幸せや安寧が欲しかっただけだったのかな。
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けれど、
「あんな悪党にも同情できるような理由があるのさ……」
みたいな媚びたようなシーンは、本作にはほぼ無い。
随所随所でサヨコの心の底を覗かせるような演出は
あるが、この映画ではサヨコはあくまで人殺しの悪党。
彼女を被害者扱いしない所がこの映画の潔い所だし、
それを自覚しているだろうサヨコの憎たらしい性分
にも合っていると思う。
まあ、それでもあんな憎たらしい人間に騙されるのは
真っ平御免という訳で、こうして笑っていられる内が華。
愛情やカネが手っ取り早く手に入るなんて、
そんなうま過ぎる話にはお互いに御用心。
『憎まれっ子世に憚る』な内容ゆえに気分爽快とまで
はいかないが、それでも面白おかしく観られました。
観て損ナシの3.5判定で。
<2016.08.28鑑賞>