「疑似主夫の発想が見事」永い言い訳 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
疑似主夫の発想が見事
愛する人の死は悲しい。悲しいのが当然のはずである。
しかし、この映画の主人公は、その当然に該当しなかった。映画は妻の死を悲しめない男のやり場のない感情をつぶさに描く。西川美和監督の人間の見つめ方は相変わらず、するどい。冒頭、髪を妻に切ってもらう主人公の描写がいい。妻に何もかも任せているにもかかわらず、不満ばかり言う人間なのだというのが見事に伝わってくる。散髪というのは、考えてみると奇妙な場面だ。刃物を持った人間の前で無防備に身動きとれない自分をさらすわけで、そこには信頼関係がないとできない。そして、至れり尽くせりになっている状態に、なんだか可笑しみを感じる。
そして、本木雅弘に疑似的な主夫をやらせたのもうまい。自分と同じく妻を亡くした男性の家庭を助けるために、主夫に徹することで、誰かに必要としもらうことで、主人公は悲しめなかった自分を見つめなおすきっかけを得る。妻を失った男同士に絆が生まれるというのは、BL的な想像力も働く。西川監督は何かBL作品を参考にしたのだろうか、気になっている。
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