ライチ☆光クラブ : インタビュー
古川雄輝&間宮祥太朗、同世代の熱たぎる「ライチ☆光クラブ」で見せた存在感
力と美を手に入れようとした少年がたどる宿命――古屋兎丸氏が残酷かつ耽美的に紡いだ漫画「ライチ☆光クラブ」の発表から10年、内藤瑛亮監督、野村周平主演で実写映画化が実現した。古川雄輝、間宮祥太朗が強烈な存在感を見せた、悲しくも美しいグランギニョルが幕を開ける。(取材・文/編集部、写真/余澄)
1985年に演劇として発表された「ライチ光クラブ」。その後、古屋氏によって「ライチ☆光クラブ」として漫画化された。今もファンを増やし続けている光クラブの求心力――メンバーとなった古川と間宮は「非常に独特の世界観で、一人一人のキャラクターが立っているからこそ、人気があるのかな」(古川)、「エッジが利いている作品という印象はもちろん、ゼラやジャイボや魅力的なキャラクター性など目を引く部分はたくさんあると思いますが、宗教犯罪やいじめの延長の殺人事件などに深く突っ込んだテーマを感じて。根底にある鋭い社会風刺のような、センセーショナルな作品の持つパワーがすごく魅力的」(間宮)と惹かれていった。
立ち上る黒煙と油にまみれた廃工場でうごめく少年たち。醜い大人になることを拒んだ9人の少年が組織した「光クラブ」は、永遠の美を手に入れるためロボット「ライチ」を生み出す。舞台として生み出され、漫画化、再舞台化、アニメ化とさまざまな形で表現されてきた世界に、ふたりはどのように挑んだのか。ゼラ役の古川は「意識したことは、漫画の世界観をとにかく大切にしたいということでした。キャラクターが濃い分、お芝居がやりすぎになってしまうので、リアリティを持った作品の世界を作るため少し抑えつつ、微妙なラインを狙いました」と振り返る。
そうしてキャラクターを構築する上で、漫画でも印象的に描かれる手を中心に、ゼラの動きを意識したという。「ゼラが唯一動き回ることができるんです。ステージ上での帝王であるゼラが動くと皆が従う構図になっていたので、シーンによって自分がどう動くかをすごく意識しました。もちろん感情も大切ですが、ゼラは絶対的な帝王として怖く見えないといけなかったので、どの角度から入るのがいいのかなどテクニカルな部分も含めて見せ方が非常に重要になりました」。
間宮は、「漫画がベースになっているけれど、映画版のキャスト、スタッフには映画は映画の『ライチ☆光クラブ』として新しいものとして成立させるという意識があったと思います。漫画や舞台もキャラクター性が強いですが、映画では生身の人間が演じる生々しさや温度だったり、ライチのおどろおどろしくて絵で見せる漫画とは違ったとっつきにくい部分があった方がいいと思ったんです」。
演じたジャイボは、原作漫画では「きゃはっ」というセリフが特徴的だ。「やりすぎもダメだし、やらないのもダメ。もしかしたら、台本の中で一番難しいセリフなんじゃないか」と古川が言うように、間宮も「本当にどうしようかなと思った」と笑う。「漫画では絵面が面白いし、舞台でやるとひとつのアクセントになっているけれど、映画では口グセみたいなレベルに落としたかったんです。あまり立たせたくもないけれどみんなが気になる部分だから、ふだんから口にしているような微妙なラインを狙って、口が『きゃはっ』になるように繰り返しました。キャラクターではなくジャイボという人間として考えましたね」。
絶対的な存在として組織に君臨するゼラと、ゼラに異様な執着を見せる美少年ジャイボ。ふたりはキスシーンなど濃厚な演技で少年たちの歪んだ関係に挑んでいるが、「距離感がすごく良かったと思っています。役に対する話し合いもなく、ふたりのシーンではお互いに何を考えているのか分からないドキドキがありました」(間宮)。古川も「目指しているポイントは一緒だと思うので、特に話し合わなくても本番では成り立つのかなという気がしていました。ゼラとジャイボだけではなく、お互い役のことを話し合わなくても、そこでキュッと集まれば光クラブができているという状態だったのかな」と話す。
古川は「間宮くんがジャイボで良かった」と信頼をのぞかせ、「ジャイボはゼラが性の処理を頼んでいる相手なので、ジャイボに求める最大の要素は色気だったんですが、間宮くんは男性から見ても色気が出ているのですごく良いなと思っていました。見た目だけではなく話し方も大人っぽくて周りを見ている。ふだんの服装もオシャレだし、そういうものも含めて色気のある人だなと。それはジャイボをやる上で重要だなと思っていました」。
「とにかく古川君演じるゼラを愛することだけを考えた」という間宮は、「想像をはるかに超えて、絶対的なゼラがギュッと入ってきたので、最初のシーンが印象的だった」とゼラとの出会いを語る。「古川くんはすごく鮮烈でしたね。古川くんはゼラのイメージがあまりなかったんですが、現場に入ってすぐの撮影で、ゼラが王座の前でみんなを見下ろして話し始めた瞬間に『来た!』と一気に引き込まれたんです。古川くんの声の響きや存在感を目の当たりにした時に、僕の中で絶対的なゼラができました」。
本作で描かれる幼さゆえに渦巻く純粋な残酷さ、独占欲。古川は「演じる上で役の年齢は基本的に意識しない。映画を見た時にその年に見えていればいい」と演技に対するスタンスを明かし、「子どもだからこそ、ゼラは人を殺したりできるんだろうなということだけ意識しました。頭が良すぎるが故に孤独な弱い子どもで、それがその人にとってのすべての世界なんです」。間宮は、原作で「バックボーンがほとんど描かれていないこと」を指摘し、「みんな興味を持つところだと思うのですが、あえて隠すことによって世界観が色濃くなっていると思います。この映画でもそれが正解だと思ったので、ジャイボという人間が存在しているということだけを考え、過去を理屈で説明できないようにしたかったんです。少年性がテーマのひとつになっているけれど、役作りに持ち込むと違う方向に向かってしまうと思ったので、ゼラを純粋に愛しているということだけ煮立たせました」と向き合った。
間宮に「気持ち良さそうだった」と言われるまでに、悪役を演じきった古川。念願かなっての「狂気的な悪役」を手に入れ、「やりたかった役にめぐり合えて、役者として引き出しが増えました。30歳を前にして、いろいろな役に挑戦することがすごく大切だなと思っています」と手ごたえ。「引き続き悪役をやっていたい(笑)」とにやりとし、「(悪役の魅力は)出し切れる感じですかね。普通の少年を演じる難しさとはまた違う難しさがあるし、自分にあまり回ってこない役ほどやりたくなるもの(笑)。シリアルキラーをやりたいですね」と新境地開拓を誓う。さらに「同世代の方々と一緒にお芝居できたこと」にも充実感をにじませ、「若手が集まれたことは良かったと思います。テクニカルな部分より、『どういうスタンスでお芝居しているんだろう』『どういう思いでこの仕事をしているんだろう』という人間性に注目します」と話した。
時間を共有しながらも、ゼラへの思いが交わることのないジャイボ。間宮は、「撮影している時は自分の中にジャイボの抱えているものや苦しさを持っていたので、今自分から離れていくジャイボに愛おしい感情があふれています。ジャイボはジャイボとして真っ当に生きて、自分の気持ちにウソをつかずどんな手段を使ってでもゼラを愛そうとした純粋さがすごく愛おしい」と目を細める。「女性がジャイボに感情移入して泣いてくれればいいな」と思いを込めながらも、「人によって見方も感想も全然違うと思いますし、見てくれた人が感じたこともひっくるめて作品になると思っています。ジャイボを演じたことで、僕に対する印象がどう変わるのかも楽しみのひとつ。同世代のエネルギーや熱を帯びているので、作品の奥に隠れたこの世代の役者たちが向き合ったということが伝われば嬉しいです」。
そして「『学校のカイダン』のような絶対的な支配者だったり、飛び道具的な役だったり(笑)、嬉しいことに本当にいろいろな役がきますね。常に驚きを感じていられれば、色も濃いものから薄味のものまでどんな役でもやりたいです。自分の幅を狭めたくないですし、応援してくれるファンの方や監督、スタッフのみなさんにどんなイメージでも持ってもらえたら一番嬉しく思います」と力を込めた。20代のエネルギーに満ちた「ライチ☆光クラブ」でぶつかり合った古川と間宮から目が離せない。