「笑いあり涙ありのインド発感動的ロードムービー!」バジュランギおじさんと、小さな迷子 HALU6700さんの映画レビュー(感想・評価)
笑いあり涙ありのインド発感動的ロードムービー!
先日の1/29(火)に、父親が感動できる映画を観たいというので、MOVIX京都にて、本作品を一緒に鑑賞してきました。
本編上映時間が159分間と、かなり長いので、年老いた父親の膀胱が保つかどうかヒヤヒヤしましたが、映画のエンディングの際までトイレに立つ事なく無事に鑑賞出来たのが先ずは何よりでした(苦笑)。
インド人の青年が、声が出せない障碍を持つパキスタンから来た迷子になった少女を連れて、果たして無事に故郷の村の親元へ送り届ける事が出来るのか?と言った、お話自体は至極単純明快な映画なのですが、ヒンドゥー教とイスラム教といったその信仰する宗教の違いなどから、1947年。インドがイギリス領の植民地支配からの独立をする際に、インドからイスラム教徒の多い地域がパキスタン・イスラム共和国として分離独立をして以降、約70年以上に亘りインドとパキスタンは国家間で対立し未だに敵対関係にある中、パスポートもビザも持たずに、国境を越えていくのは、まさに苦難の旅であり、ましてや、口の利けない為に、迷子の少女の故郷がパキスタンのいったい何処なのかも皆目見当が付かない状態の無謀とも言える旅なのでした。
正直者でお人好しな主人公パワン(愛称:バジュランギ)を演じているのは、インド映画界でも最も影響力のある「3大カーン」の一人、サルマーン・カーン。
本作ではプロデューサーも兼務する彼が、これまでの肉体派アクションスターのイメージを一新して、お人好しな青年役を演じています。(アクションシーンも多少あります。)
声を出せない迷子の少女シャヒーダー(インドでは名前が分からないので、お嬢ちゃん・おチビちゃんの意である「ムンニー」と呼ばれる。)の役柄を、豊かな表情で見せてくれているのは、約5.000人のオーディションから選ばれ、映画初出演の本作で超人気子役となったハルシャーリー・マルホートラ。
撮影当時はその役柄と同じく実年齢6歳との事ですが、そのあどけない表情から溢れんばかりの<もの言わぬ演技>で観客の心を魅了していました。
彼女の演技なくしては、この映画の成功はなかったとも言えるほどの可愛らしさでした。
監督は、『タイガー ~伝説のスパイ~』(2012年)でサルマーン・カーンと初めて組んで、同作品でも大ヒットをさせたカビール・カーン。
お話しの流れ的には、
パキスタンの小さな村に住む女の子シャヒーダー(ハルシャーリー・マルホートラ)。
幼い頃から、耳は聞こえるのですが、声を出せない障碍を抱える娘を心配したお母さんと一緒に、インドの有名なイスラム寺院に願掛けに行くのでしたが、帰り道で一人インド取り残されてしまうのでした。
そんなシャヒーダーが出会ったのは、ヒンドゥー教のハヌマーン神の熱烈な信者の<バジュランギ>ことパワン(サルマーン・カーン)でした。
これもハヌマーンの思し召しと考え、母親とはぐれたシャヒーダーを、仕方なくムンニーという愛称で呼び、一時的に預かることにしたパワンでしたが、やがてムンニーがイスラム教徒のパキスタン人だと分かり、彼や周囲の人間は驚愕します。
宗教観や食文化の違いだけならば未だそれほどにも困惑しなかったのですが、前述した様に、イギリス領の植民地支配から、インド建国の際に、宗教的な見地から、イスラム教徒の多い地域は、パキスタン・イスラム共和国として、インドから分離独立して以降、歴史的な軋轢が未だに脈々とインドとパキスタンの両国間に対立する根深い感情が残っている事もあり、パワンの愛する彼女ラスィカー(カリーナ・カプール)の厳格な父親からも「今すぐこの少女を故郷へ帰せ!」と一喝されて、一度は怪しい旅行代理店にムンニーを預けてみたものの、可愛いムンニーは売春宿に売り飛ばされそうになってしまっていたのでした。
遂に、パワンは、パスポートもビザもない状態で、ムンニーを伴って国境越えをして故郷へ送り届ける決意をします。
インド人のパワンにとっては、近くて遠い国パキスタン。
パキスタンの国境警備隊に見つかる危機の後も、パキスタン国内ではインドに潜入したスパイに間違われて警察に追われる波乱万丈の二人旅。
途中、パキスタン人の報道レポーターが同行してから、3人のロードムービーともなり、映画の質感が若干変わって、インドとパキスタンの両国間の複雑な関係も見え隠れしつつも、パキスタン人の彼の友情に満ちた活躍が奇跡的な展開を招くことにもなるのでした・・・。
といったイントロダクションの映画でした。
冒頭のカシミール渓谷の空撮による大自然も美しくて凄かったですが、本編上映時間159分の間、インドのボリウッド映画独特な<ダンス&ミュージックシーン>も、ふんだんに盛り込まれており、主人公パワンのその派手な登場シーンからして、その華々しさには驚かされましたね。
また、この<ダンス&ミュージックシーン>のパートを古典舞踊の様なダンスで彩るのは主人公パワンの愛する彼女ラスィカーを演じるカリーナ・カプール。
物語は後半に進むほどに、<もの言わぬ>子役ハルシャーリー・マルホートラが完全に持って行っていましたね。
終盤の展開も、想定の範囲内の内容であり、観客の中には、予定調和的・ご都合主義的過ぎると揶揄される人も中にはあるかも知れないですが、主題は、宗教や人種、国家・国境を越えた普遍的な「人間愛」を描いた作品でありますが、1947年以降のインドとパキスタンの分離独立による確執の歴史を鑑みると、現実的にはそう易々とは有り得ないファンタジーの様なお話なのかも知れません。
しかし、この映画はインドで大ヒットしたそうですので、この映画を観て、インド人、パキスタン人、しいては世界中の多くの国の方々に向けて、「世界中がこうなったらいいのになぁ」という祈りの気持ちがギッシリと詰まっている作品なので、この映画を観て多くの人たちの意識改革にも繋がれば良いなぁと思いましたし、50歳過ぎのオジサンの私は、そんな理屈抜きに、涙腺崩壊状態でした。
私的な評価と致しましては、
『LION/ライオン 25年目のただいま』(2016年)でも描かれていた様なインドにおける多大なる迷子問題や、それに付随する人身売買問題などの社会問題も併せて描きつつ、本作では、更に、宗教や人種、国家・国境を越えた「人間愛」を描いた作品としても素晴らしい作品かと思いましたし、何よりも<もの言わぬ演技>で観客を魅了したシャヒーダー役のハルシャーリー・マルホートラの好演が見事に尽きた作品でした。
従いまして、五つ星評価的には、ほぼ満点の★★★★☆(90点)の高評価も相応しい映画かと思いました次第です。