「私の写真の狙いは、見る人の左耳をくすぐること」写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
私の写真の狙いは、見る人の左耳をくすぐること
地階にて展覧会があり、彼の人柄を知ろうと鑑賞。原題「in no great hurry」。まさに生きることを急がない生き方。人と違うことを厭わない感性。「忘れられようと願っていたのに、重要でなくあろうと願った」一人暮らし。
自ら「墓場」のような部屋だと自嘲する。たしかにとっ散らかっているが、彼の生きてきた年月が折り重なっている。だから彼にとっては、そこにある無秩序に快感がともなうのだろう。
「幸福は馬鹿げた概念だ。幸福は人生にとって重要ではない。もっと他のなにかだ。」と言う。「心があるとは、辛いことだ。」とも言う。それは幸福を諦めた裏返しの捨て台詞とは思えなかった。老いぼれてはいるがみじめではなかった。
なお彼の写真は、誰の視界にも入っているごくありふれた世界。違うのは、その瞬間を切り取れるかどうか。人の賞賛を得ようと狙っていない。野心もない。作為的でもない。およそ世の中の写真家のようなせせこましさや神経質さがない。街歩きのついでに写真を撮る彼は、初めてカメラを持った爺さんが、無造作に目についたものを撮っている様にしか見えない。むしろ、だからこそ被写体である街の人々は無警戒で、素に近い表情を見せるのだろう。それもまた彼の魔術、か。
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