「少年が「少年」を終えるための日々」ぼくとアールと彼女のさよなら 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
少年が「少年」を終えるための日々
決して目立たずかと言って省かれない、ちょうどいいポジションを潜り抜けてハイスクール生活を送る、ちょっと頼りない少年グレッグと、白血病と闘う少女の物語。ともすれば安直なお涙頂戴的なストーリーラインが浮かんでしまいそうだが、この作品をそれを軽く飛び越えるユーモアとシャープさがある。ちょっと「きっと、星のせいじゃない。」が思い出されるが、どちらが良い悪いではなく、対の作品として捉えてもいいかもしれない。どちらかを気に入ったならきっともう一方も好きなはずだし、二作品とも併せて愛したい。
ハイスクール最後の年を、白血病と闘う少女と過ごす日々。いつか「少年」をやめる日が刻々と迫るグレッグと、隣には刻々と「死」へと歩み寄る少女がいる。大学進学と残された高校生活。恋か友情かも分からない絆と、自主製作パロディ映画・・・。そういった積み重ねから、10代後期に訪れる「あと少しで整理がつきそうで、やっぱりうまくまとまらない思春期最後の心のモヤモヤ」が滲むように伝わってくる。少女のために作り始めた映画製作の混沌など、まさにそれだ。そしてそういったモヤモヤする気持ちに片が付く時、つまり映画が完成した時に、グレッグは「少年」を抜け出す。一人の少年のカミング・オブ・エイジ・ストーリーを最後まで丁寧に見つめている。
白血病という病気を扱ってはいるものの、作品がそれに縛られることはまったくなく、10代特有の鋭い感性とユニークな視点で物語が作られているのがとてもいい。主人公のウィットに富んだユーモアと語り口などにそれがよく表れていて、若々しく瑞々しい感性が作品全体に溢れていて実に清々しい。大人が昔を振り返って青春を美化するのではなく、登場人物が「今」を生きているという息吹が感じられるため、登場人物たちのこころの動きに説得力がある。死への向き合い方にも嘘がなくて素敵だ。死を扱う際、どうしても湿っぽくなりがちだが、死さえも少年の成長と重ねて爽やかに描き出されている。かと言って、死を物語の効果として利用したようなあざとさは一切感じない。「死は生の一部だ」という誰かの言葉を思い出し、「少女の死」と「少年の生」が一体化するのを感じ、その時に哀しくも幸福な涙が出た。
そういえば10代の頃、誰かの「死」を突然身近に感じたことがあったような、ふとそんな気がした。実際に身近な人を失ったわけでもないのに、突然誰かの「死」に共鳴し、さながら自分のことのように感じたことが。あれが自分にとっての「カミング・オブ・エイジ」へのステップだったのかな?などということを、この映画を見ながら、思い出していた。
いくら主演俳優が無名だからって、こういう作品を日本で劇場公開しないのはあまりにもったいない。特に高校生には(出来れば卒業までに)ぜひとも見せてあげたい作品だ。