「健やかなスパイダーマン」スパイダーマン ホームカミング fall0さんの映画レビュー(感想・評価)
健やかなスパイダーマン
トビーやアンドリューのピーターが享受しきれなかった、普通の学校生活を謳歌してるピーター。憧れの先輩がいて、ネッドとじゃれあって、楽しそう。(少なくとも作中では)大切な人の死に直面することこそないけど、少年として普遍的な葛藤に直面し、乗り越えていく。このまま悲しい目に合うことなく健やかに過ごしてほしい。
アベンジャーズになりたくて自分なりに頑張る姿は微笑ましいし、背伸びして失敗して自他を危険に晒して叱られて落ち込む場面ではハラハラするし、一度は諦めても正義感から再び立ち上がるところはグッときた。青春モノによくある展開だけど、トムホの素直で喜怒哀楽のハッキリしたスパイディがとてもカワイイので、応援したい気持ちになる。あと、バルチャー=好きな子の父親だった、って展開は面白かった。意表を突かれたし、ガールフレンドの父親に対峙するっていう少年のベタな試練と、ヒーローとしての悪役との戦いっていう二重の構造にしたの、うまいと思った。
ちょっと引っかかったのは、トニーの態度かなぁ。身の丈に合わない敵に向かって行く危険さを叱った癖に、そこが改善されないにも関わらず、成果が出たら最後に手の平返して評価するのは大人としてダメなんじゃないの。明確にパワーアップしたわけでも、大人の協力を得たわけでもなく、むしろダウングレードしたスーツでバルチャーに向かって行ったわけで、無茶なのは変わってないと思うんだけど。それとも、成果としてバルチャーを捕まえたことで「それだけの事が出来る力がある=身の丈に合わない無茶はしてない」と考えを改めさせたのか。
ピーター視点だとトニーは、スゴいテクノロジー持ってて強くてソツなく人を助けちゃうスーパーヒーローで、ピーターを見ていて助けてくれて、だけど時々わかってくれないしちょっと過保護にも感じられる「大人」なの、面白い。失敗も人を助けられない事も批判される事も多くて、ピーター以上に無茶ばかりしてて、わかってもらえない悲しさや見てもらえない寂しさを身に沁みて理解してる、葛藤の多いおじさんが、高校生の前では頑張って保護者であろうとしてるの、ほっこりしてしまう。アイアンマン3で子供と同レベルで言い争ってたのにね。
スーツを取ったら何が残る、ってアベンジャーズヒーローに度々投げかけられる問いかけだけど、スパイディの場合は「親愛なる隣人」であることなんだなぁ。弱気を助け悪を挫く、ストレートな隣人愛。
何がピーターをそうさせるのか、気になる。作中でちらっと言及されてた、「メイおばさんに悲しい思いさせた」のって多分ベンおじさんの死なんだけど、過去作のスパイダーマン同様、その辺がヒーローとしての動機なのかなぁとか、色々想像を駆り立てられる。公式設定ではなくトムホの発言で、アイアンマン2のエキスポでトニーが助けた子供がピーターだったらいいね、みたいなのもあったね。
バルチャーって、アベンジャーズに取り零された人が加害者化したケースなんだけど、そういうところにスパイディが視線を向けてすくい上げるの見ると、色んなヒーローがいる事にホッとする。アベンジャーズは宇宙の事やってればいいよ、ご近所の事はスパイダーマンがやる、ってピーターに言ってほしい。
バルチャー死ななかったの良かった。カレンに即死モード起動されかけて慌てて止めるってコントが何回かあったように、スパイディは悪い奴を止めたいだけで、殺したくはないんだよな。ここでバルチャー死んでたら、リズが次回作で悪役になってたかもしれない、同じ轍踏まなくて良かった。
バルチャーにマイケルキートンを配役したの、とても良い。リーガンが認知していた作品群の中にマイケルキートンが出演してるメタな感じ楽しい。バードマンでヒーロー映画やダウニーに悪態ついてた男が、バルチャーになってアベンジャーズやトニースタークに恨みを抱くって、呪われてんなこのおじさん。マイケルキートンの演技が迫力あって、情に厚い身内思いの男が暴走してく様は凄みあった。