劇場公開日 2016年10月29日

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「恥も外聞もないお涙頂戴映画」湯を沸かすほどの熱い愛 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

1.5恥も外聞もないお涙頂戴映画

2020年7月11日
PCから投稿

宮沢りえが圧倒的に上手でした。死にたくないようのセリフや死に際の恍惚の表情は鬼気迫るものがありました。セリフなく出番少なめですが、篠原ゆき子も印象的でした。だらしないのに憎めない男、オダギリジョーの独壇場だと思います。杉咲花には天賦のものを感じました。みな力演でした。

安澄が教室でみんなの前で下着姿になりますが、有り得ないゆえ過剰を感じました。
9歳の鮎子が泣きながら「できればでよいのですがこの家に居たいです」と殊勝な発言をします。9歳にそんなことを言わせる親の顔が見たいと思いました。
双葉の死を看取るのは安澄で、一浩はなぜか一度も見舞いません。

追い詰められるのは常に子供で、個人的にはむしろそちらに同情を感じました。が、主人公双葉の露命という痛ましさが、その瑕疵を隠していました。隠す──というか、死ぬほうが偉いという筋書き上の驕りが見えました。

安澄はいじめられっ子、探偵さんは妻を亡くして子連れ、拓海くんは継親から逃げ出したヒッチハイカー、酒巻さんは唖者。
右も左も不遇の免罪符しょっている人物だらけ。これらが、なぜそうなっているのか──と言えば、同情票を買うためです。他の理由が思いつきません。いわばオリバーツイストが「俺って孤児だからかわいそうなんだよね」と言っているような──呆気にとられるほど単純なエクスキューズを堂々と打ち出している映画でした。

それでも、双葉の露命がそのカーストの最上段にあり、小さい悲劇はみな「死ぬのに比べたらたいしたことないよね」と、こうべを垂れているわけです。そういう映画だと解釈しています。

これだけの悲劇と不幸をあつめられ、役者が力演で応えていると、酷評したら冷血だと思われてしまいかねない──という防護壁も固めていますが、恥も外聞もないお涙頂戴映画だと思います。にもかかわらず国内の映画賞を総なめしました。

結局、感動した/泣いたの評価で占められ、賞も獲得している以上、需要と供給が満たされているのが明白ゆえ、そんな大多数が支持する映画へ、歯ぎしりみたいなマイナーオピニオンを携えて突っ込んでいくのは、みっともないわけですが、日本人がこれでいいなら、日本にはもうドラマタイズもキャラクタライズも何にも要りません。

エジプト行きたい──からの人間ピラミッドが、正視できない恥ずかしさで、あのおぞましい組み体操を見て映画への支持率を知るとき、日本て国はフランダースの犬の最終回と根性論で天下取れるんだな──と思いました。

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津次郎