「世の中に逆らわず、厳しい時も工夫して小さな幸せを見つけながら生きて来たのに、 気が付くと、突然、大事なものをいくつも奪われてしまう恐怖」この世界の片隅に ITOYAさんの映画レビュー(感想・評価)
世の中に逆らわず、厳しい時も工夫して小さな幸せを見つけながら生きて来たのに、 気が付くと、突然、大事なものをいくつも奪われてしまう恐怖
主人公すずさんを通した、これまで描かれる機会が少なかった、第二次大戦当時の「普通の人たちの普通の日常」。
ちょっとぼーっとしているすずさんのキャラクターと、それにぴったりな声を演じるのんさんがとってもいい。
さらに加えてアニメであることで、生々しさが少し薄まっているのも観やすくなっています。
「ひとさらい」「ざしきわらし」や「おにいちゃんのワニのお嫁さん」の話、波を撥ねる「白いうさぎ」など、すずさんの空想も、映画全体に優しくて楽しい空気感を作ってます。
そのおっとりしていたすずさんが終戦を迎えたときの「心情」や、そのあと描かれる戦後の人生がさらに心に残ります。
反戦を声高に描かないスタンスが素晴らしいです。
…というのが2016年公開時の感想でした。
その後、2018年年末公開のロングバージョン「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」を鑑賞。
そしてこの度、すずさん100歳、終戦80年上映を改めて鑑賞して、少し感想が変わりました。
不自由で貧しい生活の中でも、つましい小さな幸せを見つけて生きていけるようになることは、実は褒められるようなことでも何でもない。本当は恐ろしいことなのだと。
そして、あらゆる状況でも受け入れて逞しく生きていく。
少しずつ周りの状況が悪くなっていき、絵を自由に描くことすらできなくなっていき、気付いたときは、いくつもの近くの大事な人の命が、一瞬で失われてしまう。
個人では逆らえない、どうしようもない大きな波にさらわれてしまう。
身近な大事な人も、日常も奪われて、ただの普通の人間が、例え最後の1人になっても竹やりでも戦う覚悟でいたのに、1つのラジオ放送だけで、突然無かったことにされる悔しさ。行き場のない怒り。
ぼーっとしたすずさんのままで死にたかったのに。
それでも、拾った子とともに歩き出す姿には救われる。
ここでまた、どんな状況でも生きていける、人の強いところを良き方向に生かせる時代が来る。
失った右手が、生き生きとして明るいエンディングのイラストを描いている。
