「実在の人物の半生を元に脚色したコミックが原作。ただの残酷な戦争映画とは違って、戦禍の中でも普通の生活を続けようとする主人公の無垢な心が涙を誘う良作」この世界の片隅に おつろくさんの映画レビュー(感想・評価)
実在の人物の半生を元に脚色したコミックが原作。ただの残酷な戦争映画とは違って、戦禍の中でも普通の生活を続けようとする主人公の無垢な心が涙を誘う良作
原作は未読でしたが、戦後80年を記念しての期間限定リバイバル上映だったので、色々と予習をして観て来ました。まず原作者の柔らかみのある暖かい絵柄を踏襲して動く絵本のような優しい雰囲気で物語は始まります。
主人公の浦野すずは、ちょっとおっちょこちょいなところがあるけど、絵を描くのが大好きな優しい女の子。両親・兄・妹と五人家族で広島で暮らしている。ある時、海苔を作っている祖母の手伝いをするために草津港の祖母宅に家族で行くが、ひょんなことから縁談の話が持ち上がる。最初は躊躇したが、呉にある北條家に嫁ぐことが決まる。
夫の北條周作は呉の鎮守府に務める事務方の軍人。生真面目で周りからは暗いと評されるが、すずには深い愛情を持つ心優しい人物。他に両親と出戻りの義姉、黒村径子と義姉の娘の晴美がいる。径子は最初の頃すずに嫌味な事を言ったりするが、いわゆる「ツンデレ」な気質があるので、後には優しい一面も見せる。・・・と、昭和10年代の普通の庶民の生活を描いているのはここまで。
いざ戦争がはじまると、物資が足りなくなって配給制になるが、配給切符を持っていてもすぐに品切れになって買えなかったりするので、闇市を頼る事もしばしばある。そんな生活の中ですずは持ち前の発想力で、食べられる草を探して来たり、少量の米で量を水増しして炊く方法を見つけたりして、家族が今まで通り笑顔でいられるように知恵を使う。
呉は軍港なので、ミッドウェー海戦で敗北した後は昼夜問わずに米軍機の空襲にさらされることとなる。すずは晴美と一緒に病院に入院している義父を見舞いに行くが、帰り道で空襲に遭い、直撃は逃れたものの時限式爆弾の爆発で、右手前腕部と晴美を失ってしまう。ほぼ同時期にすずは兄の要一も南方戦線で亡くすが、帰ってきたのが遺骨ではなく一個の石だったため、すずの一家は要一の死を容認できずにいる。
径子は娘を失ったことで最初はすずを攻め立てるが、右手を失って大好きな絵が描けなくなり、家事も上手くこなせなくなったすずを気遣い苦手だった家事にも精を出すようになる。すずは晴美を死なせた罪悪感から広島へ帰ろうとするが、それを必死に引き止めたりする。
原爆の投下ですずは父の十郎を亡くし、母のキセノは行方不明になった。妹のすみは一命を取り留めたが、原爆症で働けなくなり、祖母の家に引き取られてひっそりと暮らしていた。妹を見舞った後、周作とすずは広島の街中で戦災孤児の女の子(映画では名前は不明)と出逢う。女の子の母親は爆風で右腕を失って亡くなっていたので、右腕のないすずに母の面影を見てすずに懐いてくる。その姿を見て周作とすずは呉に連れて帰り、養女として迎える事となった。
「戦災孤児の女の子」を見た径子は、亡くした晴美と似た背格好だったことから、晴美の着ていた服を直して着せてあげたりして快く迎え入れた。エンディングでは径子と孤児の子とすずが、おなじ生地で仕立てた服を着て仲良さげに微笑んでいるシーンが泣かせるポイントの一つ。
制作費の一部をクラウドファンディングで賄ったことから、エンドロールに沢山の協力者の名前が出てきて、原作段階からとても愛された作品なのだと実感しました。
戦争が中心に描かれているわけではなく、あくまでも市井の人々が中心なのに好感が持てますし、であればこそ、戦争による影響が強く心に刺さります。のんさんの演技は本当に素晴らしいと思います。
共感&コメントありがとうございます
本作、庶民目線で描かれているので、仰る様に従来の戦争映画とは違う感情が刺激されて泣けました。戦争の理不尽、不条理が主人公を翻弄するところでは、悲しみの涙ではなく、怒りの涙が溢れてきました。
どんな時でも、たくましく生きる主人公の姿もgoodでした。
こんにちは。
コメント有難うございます。
私は、「この世界のさらにいくつもの片隅に」も観ています。
世界が右傾化する中、人間同士が憎みあう事が多い世の中、今作の様に大変な目に遭っても、淡々といきるすずさんの姿と彼女の声を担当したのんさんの柔らかい声が素晴しき作品だと思います。戦争は何者も生まないですからね。では。
おつろくさん、共感とコメントどうもありがとうございます。
今となって思えば、白木リンさんが登場しない こちらのバージョンの存在が有難く感じます。『この世界の いくつもの 片隅に』(長尺バージョン)で 原作漫画をフルでアニメ化したほうも、白木リンさんの美しい動きや声を堪能できて、そちらも大好きなのですが、恋愛要素が強すぎるかもしれません。きっとリバイバル上映が こちらのバージョンが選ばれたのにも意味があるのでしょう。
ラストは、明るい生活が始まる予感がしますね。続きが観たいという終わり方、それはそれで作品として最高ですよね。おそらく孤児が沢山いて、今作のような家族が少なからずいたのでしょうね。
こんなに素晴らしい作品を製作してくださった監督と原作者、関係者の皆様、またクラウドファンディングで協力してくださった方々に 感謝してもしきれません。