「大好きです。」この世界の片隅に 明烏さんの映画レビュー(感想・評価)
大好きです。
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〝感動する〟〝泣ける〟そんな言葉だけで語れる映画ではないと思います。
戦時に生きる人々の日常を淡々と描き、その裏で刻々と悪化する戦況をちらつかせ、観ている観客にはもう嫌でも分かっている、避けられない結末へとカウントダウンしていく残酷さ。ありふれた日常の愛おしさと戦争という非日常の対比。
徐々に困難になってくる日常生活や、繰り返される戦火という理不尽な暴力の中に身を置くと、それに対する疑問や怒りまでも麻痺して戦争というものすら日常になってしまう。生きていくための日々の営みは変わらなくとも、物事の価値観や優先順位は知らないうちに別のものにすり替わっていく。
愛らしい絵でほのぼのと描かれる日常は「戦時中でも小さな幸せを大切にし、笑顔を絶やさず前向きに生活している人達」というよりは、辛い現実の中で「せめて笑おうとしていた」人達の生活だと思う。糸が切れたように突然泣き崩れる登場人物達がそれを物語っているように感じた。
露骨に悲劇的な描写は少ないが、細やかな日常の中にしっかりと悲劇は潜んでいる。
原作を読んだり太平洋戦争史を予習してから観れば劇中に刻まれる日付の意味も深まると思うし、この映画を海外で上映した時の反応も気になる。
個人的にはジブリ作品なんかよりもずっと、後世に遺すべき傑作だと思います。
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