劇場公開日 2016年11月12日

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「奇跡のような映画、と言ってもいいですか?」この世界の片隅に 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0奇跡のような映画、と言ってもいいですか?

2016年11月26日
iPhoneアプリから投稿

思い過ごしかもしれませんが、他のどの映画のレビューよりも、『語らずにはいられなく』て投稿されている方が多いように感じます。
他の作品の場合、あの感動を分かって欲しい、とか、共有して欲しい、みたいなものがベースになっているのかな、と思いますが、本作の場合、観た方それぞれが、自分の中に生じた感情が一体何なのだろう、自分の中のどんな要素に響いたのだろう、と考察するために、『取り敢えず書いてみないと整理できないから書いてみた』ようなコメントが多いように感じました(少なくとも私はそうです)。

最近、世の中が妙に短絡的で攻撃的になっている気がします。やたらと嫌◯◯、反△△と煽る一部メディアや気に食わないからと駅員さんを殴ってしまうこととかです。格差問題のように、個人の力だけではなかなか現状が打開出来にくい閉塞的な状況が続くと、鬱屈したフラストレーションを発散する手段として、単純明解で勢いのある威勢のいい言動が一定の支持を得て、何となくそこに乗ってしまったほうが居心地がいい、という“空気”が生まれることがあります。
もしかしたら、間違った方向である種の空気が醸成されてやしないか、という漠然とした不安。先の戦争が愚かな選択の積み重ねだという結論はすでにでていて、まさか同じことを繰り返す筈がない、と何となく思い込んでいますが、本当に大丈夫だろうか、という不安。
空気を“読まない”すずさんを通して、そんなことを教条的な押し付けがましさを全く感じさせずに、それでいて重く問いかけてくる奇跡のような映画だと思いました。
〝空気〟を作るのは他の誰でもない自分なのだという責任感が深く刻まれました。

グレシャムの法則