TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ : インタビュー
「音楽は気持ちだろ」赤鬼ロッカー演じた長瀬智也が宮藤監督新作で届けたい思い
「地獄へようこそ」――真っ赤な顔にロックバンド「キッス」のような黒い囲み目メイク、黄色く光る目で梵字ストラップのギターをうならせる赤鬼が、爆音で地獄を揺らす。人気脚本家・宮藤官九郎の監督最新作「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」で描かれる地獄は、おかしさが満ちている。そんな唯一無二の世界で赤鬼を演じたのは、「TOKIO」の長瀬智也だ。(取材・文/編集部)
マイケル・アリアス監督作「ヘブンズ・ドア」以来、7年ぶりとなった映画主演を務めた長瀬が挑んだ役どころは、赤鬼のキラーK。ロックバンド「地獄図」のギターボーカルで、地獄農業高校の軽音楽部顧問という強烈なキャラクターだ。若死にし地獄に落ちた高校生・大助がよみがえりを果たせるよう、ロック魂で地獄の特訓を施す。
歌舞伎や日本の伝統芸能を取り入れた和のテイストたっぷりの地獄では、ナマハゲのようないでたちのキラーKを筆頭に、スタッズまみれの衣装をまとったCOZY(桐谷健太)、邪子(清野菜名)ら個性豊かな鬼が集う。THE MAD CAPSULE MARKETSの元メンバー、KYONOによる楽曲「TOO YOUNG TO DIE!」、向井秀徳の「天国」が地獄を盛り立て、「自分たちが生まれ育った国のカルチャーを落とし込んだ、良い意味でのケミストリーが面白い」(長瀬)とロックと文化が融合した世界が完成した。
強烈な個性がひしめき合うなか、長瀬は「どういう風にしたらふざけた感じに聞こえるか」と1980年代のメタルを意識し、毎回1時間以上のメイクを経てキラーKに変身。「(宮藤監督が)『マザーファッカー』というセリフを印象的にしたいと言っていたので、80年代のメタルのスクリームや『モトリー・クルー』みたいな感じのハイトーンにしたんです。監督とは目指すところや面白いと思う部分が似ている気がしていたし、そういうアイデアを挟んでいきました」。
宮藤監督とは映画「真夜中の弥次さん喜多さん」、ドラマ「うぬぼれ刑事」などこれまでにもタッグを組んでおり、「その中で培ってきたものの集大成というか、自分がやりたかったことのひとつをやらせてもらえた感じがしています。自分の代表作品になると思いますが、人間の役ではなく赤鬼という斬新さも含めて、自分にとって面白い作品になりました」と手ごたえ十分。曲を作り、演奏し「(バンドで)音楽の良いところ、良い意味でのバカさを表現してきた気がする」という長瀬にとって、「やりたいこと」である音楽を形にできた作品となった。
「(『グループ魂』としても活動している)監督の原点はパンクカルチャーで、僕は神奈川の片隅でスケートをやっていたギターキッズだったから、この作品は同じ思いが出ていると思うんです。監督とも話したけれど、今はバカなロックをやるミュージシャンが世の中にいない。昔は喧騒的な空間、世界観を作っているミュージシャンがいっぱいいたけれど、今はただ格好いいだけで面白さとかゾクゾクするものがないんです。そういう思いが投影されている気がします」。
「音楽が好きだということが仕事でアウトプットすることに対して大きな要素になっているし、僕が思う音楽論をこの役や作品で変換しようと思いました」とその思いは熱い。歌唱への熱意から「歌も、なんとなく人の歌を歌っているというより、本当に歌っているようにしたかった。僕は声に個性があるから、普通に歌っても良くなるとは限らないと思っています。だから家で声だけ録音したり、自分なりに研究したんです。『歌わされているのではなく自分が歌っている』というような小さなことはすごく大事だと思うし、模索する時間もすごく楽しかったですね」。
コミカルな面が目立つキラーKだが、もとは大助と同じ地獄に落ちた人間で、生前は作曲家を志す音大出身の青年・近藤だった。ミュージシャンを生業とする長瀬は、志半ばで鬼となった役どころを思い、生前が透けるキャラクターを形作った。
「技術のある人間がアートを描けるわけではないとは思っていて。どんなに早弾きができても、音楽で世界観を描けるかどうかは別の話で、僕の中ではアーティストとミュージシャンはそういう違いがあるんですよね。早弾きする全員がギターヒーローではないし、早くなくても良いフレーズを弾くヒーローもいる。ボブ・ディランはそんなにテクニカルではないけれど、詩や音楽の世界観を持っているし。自分ができているとは思わないけれど、近藤さんみたいにそういう思いにぶち当たる人って結構いると思うんです」
音楽への愛と熱をほとばしらせた長瀬は、「メンバーが作る曲も自分が作る曲もすごく大事だけれど、自由に聞いて感じてもらえればいい。曲に対しての愛はなかなか伝わらないけれど、作る人はみんなそういう思いだと思います」「好き嫌いはあるし、歌っている人が好きだから曲も良く聞こえたり、逆に曲が好きでその人たちも好きになったりいろいろな形があるけれど、音、メロディ、言葉、気持ちで音楽に引き寄せられると思う。恥ずかしいフレーズだけど『音楽は気持ちだろ』ということがちゃんと描けている気がします」と語る。
「役者として赤鬼役が役に立つかと言うと、たぶん立たないと思います(笑)。でもそれでいいんですよ。何かを伝えることが大事で、この作品は音楽の大切さや『音楽には意味がある』というメッセージが込められていると思います。『曲ってもっと大事に聞かなきゃいけないんだな』『誰が作ったのか分からない曲でも意味があるんだろうな』とかね。そういうメッセージが届いたらいいなと思っています」。
本作のほか新ドラマ「フラジャイル」にも出演しており、2016年も長瀬はスクリーン、テレビと活躍する。さまざまな表現を経て感じる、映画でしか表現できないこととは何だろうか。
「ドラマは3カ月かけて毎週1時間ずつ刻んでいくけれど、映画は2時間くらいで完結して、ひとつの塊を一気に感じることができるから深く入る気がします。もちろん、(連続ドラマのように)長ければ長いほどストーリーは楽しめるけれど、映画はお芝居だけじゃなく音楽も全部がひとつになって体に入ったり、心に触れると思うし、描き方も自由。それに、いつも一緒に仕事をしていない人が集まるから、プレイヤーが変わることで絶対に音も変わるし、ジョイントセッションみたいな良さもあります。この作品も絶対化学反応が起きていると思うし、このメンバーでしか描けないものになった。不思議ですね、誰かひとりが代わっただけでも全然変わると思うんです」
ミュージシャン、俳優――長瀬にとっての表現活動の源は、「見てくれる人がいるということがすべて」だ。「自分も小学校のころにスケボーとかに興味を持って、そこから誰かが着ているTシャツが格好いい、バンドが格好いいと影響を受けて自分ができていきました。今は自分が表現する側だから、自分が影響を受けたように誰かにとってそうなれたらいいなと思うし、誰かの人生の一部になるということを考えるんですよね。そういうことが源なのかな。あと、芝居だけじゃなく誰もやらないことをやりたいと常に思っているので、そういうものになっていたらいいですね」。