「人には「どうしても忘れられないこと」と言うものがある」ソ満国境 15歳の夏 川野 誠さんの映画レビュー(感想・評価)
人には「どうしても忘れられないこと」と言うものがある
私が見た、おすすめしたい難民映画「ソ満国境 15歳の夏」
実話に基づく映画です。
太平洋戦争が終わる直前、ソ連と満州の国境地帯で勤労奉仕していた15歳の少年たちがいました。総勢130名。
昭和20年8月9日にソ連軍が突然侵攻してきましたが、少年たちは助けもなく孤立し、約200キロの距離を10日かけて歩いて逃げます。そこから先もソ連の捕虜にされたりして、実家の長春へようやくたどりついたのが10月20日、4人の少年が帰ることができず、また帰還後に衰弱して亡くなった少年もいました。
衰弱の原因は約50日間の捕虜生活と、それと水だったようです。ボウフラがわいた水をのみほし、それでご飯を炊くしかなかったような過酷な状況でした。原作者の田原和夫氏は、こう書いています。
「いつのころからか私は、コップで水を飲むときはコップを目の前に一瞬捧げるようにしてから飲み干すようになった。そして飲み干す瞬間には必ずこのときのたまり水の情景が胸に浮かぶ。のどが渇いたときの一杯の水はほんとうにおいしい。だが私にとっては、それは水の恩を尊び、水に感謝する祈りのときでもある。」
田原「ソ満国境 15歳の夏」p78-79
130名の少年たちは事態の全貌を知らされることなく、ただ逃げまどうしかなかった。田原氏の著書は、執念の資料調べで、15歳の時に知ることができなかった真実の空白を埋めていきます。戦争指導者たちの無責任さを暴き立てます。
田原氏が著書の中で、見捨てられた少年たちのルサンチマンを正直に出しているところが良いと思いました。私憤を公憤にすりかえるのは潔い態度とは思えません。指導者の責任は追及しつづけるべきです。許せないものは許さなくていい。人には「どうしても忘れられないこと」と言うものがあるのですから。
「戦争に負け」、「孤立していて」、しかも「子どもだった」。この三重のハンディの中で難民になるとはどういうことか、とても良く分かる映画、そして原作本です。
「ソ満国境 15歳の夏」2015年、松島哲也監督、日本