「意味なき尾行」二重生活 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
意味なき尾行
人はそれぞれに、大なり小なりの秘密を抱えている。秘密とは、当事者にとっては、他者に知られたら窮地に陥る場合もあるが、一方で、他者には決して知る事ができないという、優越感をも保持している。
それを、見ず知らずの第三者が、尾行して暴いているとしたら、個人情報保護の観点からすれば、ある意味,ストーカー行為とも言える。淡々と流れていく物静かな展開の中に、心が燻るような、苛立ちさえ感じた。
大学院の修士論文を書くために、担当教授からの指導で、ある特定の人物の尾行を通して、その人の行動を哲学的に分析することになった珠。その尾行対象としたのが、近隣のエリートサラリーマンで、幸せな家庭を絵に描いたような男。
しかし、そんな男の尾行を始めた珠だが、当初は、慣れない尾行に戸惑いもあったが、次第に他人の秘密を知ることに高揚感が高まっていく。その結果、男の不倫の秘密を知ることによって、男の幸せな生活だけでなく、周りや自分自身の生活までもが壊れ始める。
出演者がいい。主演の門脇麦は、モノトーンな演技ながら、尾行に魅せられ、対象者の言動を理解し、思いを重ね合わそうとする、生々しい女性を演じている。
尾行対象者となるのが長谷川博己は、窮地に陥り、なりふり構わない男を演じている。特に、居酒屋で酔いが回り、目が据わった表情は、実際に呑んでいるようだ。また、珠の恋人役は、菅田将暉。彼らしい優しさの中に、珠への不安を溜め込んでいく、等身大の若者を演じている。そして、リリー・フランキーも、珠の教授役として、ストーリーのキーマンとなっている。
人の幸せは、誰もが抱えれ秘密の上に成り立っているのかもしれない。それが、タイトルの意味するところであろう。