「凛とした映画」ブリッジ・オブ・スパイ たけはちさんの映画レビュー(感想・評価)
凛とした映画
スピルバーグは「未知との遭遇」「ジュラシックパーク」等の娯楽大作と、「カラーパープル」「ミュンヘン」等の政治性の高い作品をほぼ交互に作ることで知られているが、どちらともが優れたエンタテインメントであることこそが、今日のスピルバーグの作家性を担保する。
本作はその意味で政治的映画であり、かつ優れたエンタテインメントであるのだが、実際の予算的大きさとは無関係に、トリュフォーの謂う「小さな映画」として、「未知との遭遇」以来の新しい側面を記している。
いつものトム・ハンクスも、本作ではひたすら地味な存在感で、ロシアから来たスパイ(マーク・ライランス)と相克しながらも彼を引き立てていく。つとに暗い画面も、ノワールとしての本作を「ミュンヘン」同様、美しく苛烈に彩る。
いまやスピルバーグは、あの傑作「AI」でのキューブリックへの接近を経て、イーストウッド的晩年を迎えつつあるのかもしれない。それは永遠の少年による老いを知らない、未知の円熟とも呼べるかもしれない。
コメントする