「人としての矜持。」ブリッジ・オブ・スパイ とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
人としての矜持。
アベルへの最大の贈りものーそれは自分の為に、危険を顧みずに身を削って働いてくれるという事実=信頼。
「若い時に国を出た。誰が僕を僕と確認してくれる?」国だって自分を補償してくれないと言う、寂しい言葉。
スパイとして生きてきたのなら、騙し騙されだったのだろう。一生懸命やったって、帰国すれば、敵国の手に落ちたものとして扱われる可能性だってある。
スパイとしてもっている情報を売れば、命が助かるかもしれない。だが、それはしない。
そうしなくても、生かされている自分をみて仲間は情報を売ったのだと疑うかもしれない。
周りの人は真実を見ない。自分の見たいストーリーを見るだけ。
何のために誰のために仕事をするのか、真を貫くのか。
誰も見ていない。誰も認めてはいない。
ちょっと手を抜いたって、楽をしたって、ズルしたっていいじゃないか、
そんな思いが頭をよぎらないのか。
交渉を題材とした映画。だけど、細かい交渉過程はバッサリ。必要最低限。
そのかわり、短いエピソードで時代の雰囲気をたっぷり伝え、短いエピソードでその人柄を表現し、たっぷりと時間をとってクライマックスを見せる。人情・心情をたっぷり追体験させてくれ、ラストの落とし所は最高のカタルシス。ドラマの造り方がうまい。
アベルの口癖「それは何かに役立つのか?」-そのくせその対極ともいえる絵画・音楽を愛する人柄がとても感慨深かった。
このアベルだからこそ、なんとかしたいと思えてくる。
この人の為、
自分のアイデンティティの為。
誰も見ていない、誰も認めてくれないかもしれない。
だけど、私は自分のプライドの為にこうする。
天知る地知る我も知る。
そんな男の生きざま・矜持。
泣き喚いたりはしない。ひょっとした目だけで表現する。
アカデミー賞助演男優賞もかくやという演技、ご堪能あれ。