劇場公開日 2016年1月8日

  • 予告編を見る

「橋を渡るスパイ、橋を架けるスパイ」ブリッジ・オブ・スパイ ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5橋を渡るスパイ、橋を架けるスパイ

2016年1月29日
Androidアプリから投稿

興奮

知的

スパイは危ない橋を渡る。時には国家間、時には組織間、風が強く吹けば、その橋は大きく揺らぐ。だが、これは国家間を繋ぐ橋を架ける物語だ。冷戦という名の強風が吹き荒れる中で、スパイが渡り歩けるほど丈夫な橋を秘密裏に築かなければならない。

ジョン・ル・カレのような高度なサスペンスになりそうなこの題材をスピルバーグはヒューマンドラマとして料理した。スパイ交換という国際的な問題を取り扱いながらも国としての意図、策略をあまり感じさせない演出はこの手の作品の中では異質な感じさえ受ける。

しかし、これが本作の魅力となって機能する。敵国スパイは処刑すべきと世論が過熱していく中でも、法の下で、己の正義を貫いていく弁護士ドノヴァンと拘束されたソ連のスパイ・アベルとの間にいつしか友情にも似た信頼性が芽生え出す。アメリカ、ソ連、東ドイツが絡み合いながら、スパイ交換の条件を突き付けてくる中でドノヴァンは冷静に、相手国の交渉役との繋がりを強めていく。字面で追えば難解に思える物語だが、自国民を助けたい、そして、アベルを安全に祖国へ返すという極めてシンプルな彼の思いが冷え切った国家間に橋板を架けていく。

交渉は困難を極める。一筋縄ではいかない。国の信頼の下で使命を受けたスパイは敵国で拘束されれば裏切者のような目で見られる。国同士の関係が緊張する中で、互いを思いやるドノヴァンとアベルのやり取りに一抹の希望の光が見て取れる。国は人ではない。だが、国と国を結ぶのは人の力以外あり得ない。誠実さこそが最大の武器であると言えば、綺麗事に聞こえるかもしれない。だが、この作品は実話に基づくものであるというのも、また事実である。

Ao-aO