「なめたらあかん。邦画では最高の出来」ちはやふる 上の句 うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
なめたらあかん。邦画では最高の出来
まずキャスティングの成功に依るところが大きい。
原作は未読で、ビジュアルですら触れたことがありませんが、さぞや独自の世界観を構築しているのであろうと推察いたします。
で、原作のキャラ設定どおりにキャスティングされたのか、映画独自なのかまったく判りませんが、非常にバランスのとれたキャラクターで、俳優達の演技も素晴らしい。ややマンガチックな演出も、広瀬すずさんを始めにそれぞれの配役が出来事を自分のものとして消化したのちに感情を動かすという基本中の基本がしっかりしていて、その振る舞いを見ているだけでも惹き付けられます。これほど練り上げられた演出が出来ているのは、現場スタッフの「いいものを作りたい」という執念としか思えません。
お話の筋立てがしっかりしているので、例えば初心者が勝ち上がっていくというストーリーの飛躍に関しても無理がないし、登場人物たちも丁寧に描かれていて、一切の無駄がない。情報量もほんとうにちょうどいい内容で、近年の原作付きにありがちな、情報過多だったり、キャスティングありきの映画にありがちの薄っぺらい内容などという破たんがありません。企画段階からしっかりと理想を追求していったのであろうと推察されます。
次に秀逸なのが画面構成・絵作りです。競技かるたのルールは全く分かりませんが、それを表情も絡めて画面に収めてしまう畳の裏視点のビジュアルは映画における発明と言ってもいいのではないでしょうか。初めて触れる世界なのに、一目見てわかるように構成してあることが素晴らしい。百人一首の歌に合わせて、登場人物たちのサイドストーリーをきれいに構成していることも、脚本段階の練りこみがうまくいっていると思います。(これは原作段階でそうなのだとしたら、原作者のこだわりですね)
忘れてはいけないのが、音楽の良さで、主人公たちの感情の動きを的確に、押しつけがましくならずに盛り上げてくれます。これも近年の邦画の失敗作をたくさん見て学んだとしか思えません。とにかく、この監督さんは映画が好きで、「自分の理想を追求していったらこういう作品が出来上がった」というスタンスなのが手にとるように分かります。メインテーマが耳に残らなかったのが唯一マイナスポイントかな。ちょっと贅沢な注文ですね。
続編、(下の句)どころか、さらにその続きの製作が決定したそうで、願わくば、このクオリティを保ったままで「いい形」で締めくくられることを望みます。
2020.9.3