劇場公開日 2015年6月5日

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台風のノルダ : インタビュー

2015年6月4日更新
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アニメ界の新星・新井陽次郎&石田祐康、注目スタジオ発「台風のノルダ」での挑戦

スタジオジブリ出身の新井陽次郎、学生時代に発表した自主制作の短編アニメ「フミコの告白」「rain town」で評判を得た石田祐康というスタジオコロリドの若手注目株がタッグを組んだ新作「台風のノルダ」。ふたりが「挑戦だった」と口をそろえる本作は、文字通り“台風”のような勢いでスタジオに変革をもたらそうとしている。(取材・文・写真/編集部)

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石田が監督を務めた短編「陽なたのアオシグレ」に続く、スタジオコロリドの劇場公開第2作となった本作。短編でありながら東宝映像事業部配給による全国公開、人気若手俳優・野村周平の声優起用など、期待値の高さがうかがえる。物語は、ふたりの野球少年・東と西条の仲たがいから始まる。やがてふたりの暮らす島に巨大台風が上陸し、東は不思議な少女ノルダと出会う。

2014年4月、企画「台風のノルダ」が動き出した。きっかけとなったのは、新井が光り輝くクジラと少年少女たちを描いた1枚のイラストだ。「台風とともにクジラの娘である女の子が島にやってくることで、いろいろ起こる一晩のお話」(新井)が、石田やプロデューサーの山本幸治らとの話し合いを重ねるなかで、「ふたりの少年とひとりの少女」「台風」というモチーフを核に、現在の形へと煮詰まっていった。

実のところ、「台風のノルダ」と時を同じくして、姉妹を主人公に据えた企画も進行していた。しかし、キャラクターデザイン・作画監督の石田、美術監督の西村美香というスタッフの参加が決め手となり、本作が始動する。

コロリド作品といえば、小学生など幼い子どもを扱ったやわらかいタッチのアニメが代表的だ。しかし、新井は「年齢高めのキャラクターを描くことで、スタジオのスキル向上にもつながると思った」とステップアップを図る。もともと、ふたりのアニメの入り口は「絵を描き始めた中学生の頃『エヴァンゲリオン』の貞本義行さんが好きで、わりとリアルな等身のキャラクターを描いていた」(石田)、「宮崎駿さんや吉田健一さんが描く一枚絵にあこがれてアニメを始めた」(新井)ことだったが、アニメ制作の中で動きをつけやすい子どもにフォーカスしていたふたりにとって、「生っぽい中学生」は大きなチャレンジとなった。

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さらに、「楽しく描けることがアニメーションの気持ち良さにつながるので、今までは『楽しく描く』をコンセプトにしていた」現状に対し、新井は「ドラマを描いてみたい」と挑戦。丹念に場面を描くことで、物語として説得力を持たせていった。作画監督を務めた石田は、「こういうものが描きたいから描こう」という「アニメを描くためのドラマ」だったものが、「ドラマのために必要とされる絵を描く」ことにシフトしたと振り返る。

「『アオシグレ』や『ポレットのイス』よりもテーマが大きく、暗めの画面で思春期の酸いも甘いもシリアスなことも、求められることはちゃんと描かないといけないので、アニメーション以前にちゃんと絵が描けるかどうかが要求されたんです。今までのコロリドの作品で描きなれていたところから離れて苦労しました」(石田)

新井は、台風や雨の描写に加え、空気感、空間の構築といったレイアウトにもこだわった。ノルダと東が出会う教室は、3DCGで描かれている。「陽なたのアオシグレ」に登場する小学校とは対照的に、リアルな空間作りが功を奏し印象的なシーンとして完成した。新井と何度となくタッグを組み、「アオシグレ」では監督をした石田は「『アオシグレ』はファンタジーメインで、小学生の世界を味に転化させるという意図があったので、かっちりした絵を連発させすぎるとかわいさがなくなっていってしまうんです。かっちりした絵が重要だという今回との対比は面白いです」。

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新たなキャラクター像、3DCGといった技術面、そして絵の作り方――スタジオジブリで経験を積んだ有望株・新井が考えるコロリドの課題だ。「テレビアニメだとさっとパース線だけ描いて、あとは美術さんにお願いしてしまうことが多いんですが、ジブリの方のレイアウトはすごくしっかり描かれているんです。そういったものは、ジブリで見てきたことを受け継いでいるのかな」と大きな資産となっているようだ。そんな新井に対して、石田も「ひとつひとつ丁寧に描ききる努力を惜しまないところが、ジブリの人が受け継いでいる血脈なのかなと思います。自分だったら『このくらいでいいだろう』と判断するところも、『このくらいやりたい』という感じなんです」

「宮崎さんやジブリはモブキャラをしっかり描くという方針でやっていて、僕もそれを受け継ぎました。そこに面白みがあると思っているので、主人公以外にもちゃんと描くことで、世界観がもうちょっと広がると思います」。しかし、モブキャラクターも「生徒たち全員を物語があるように、そこに生きている人たちを描きたい」と考えていた新井にとって、レイアウトへのこだわりと時間との戦いには葛藤(かっとう)もあった。「モチーフを多くしてしまうと収拾がつかず、説明も疎かになってしまう」と話しながら、「今回やりきれなかったことをいかして次につなげたい」と新たなステップを目指す。

さまざまな作品づくりを経てたどり着いた「台風のノルダ」は、アニメ制作との向き合い方、制作規模の拡大など新井と石田、そしてスタジオコロリドにとってターニングポイントとなった。

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「『ノルダ』で学んだことはすごくあります。デジタル作画におけるソフトの使い方、やりとりのワークフロー、作画監督として絵をまとめる点と同時に、(新井の)監督としての仕事の回し方もそうです。良い面もそうでないと思った面も両方を参考に、これからの作品づくりにいかしたいと思っていますし、スタジオにとっても良い経験になりました。この作品の前後でスタジオとして全然違うんです。僕はいい意味で『ノルダ』を踏み台にして、スタジオともども頑張っていきたいです」(石田)

「参加したスタッフ人数から違うので大変でしたね。今までは少人数でやっていたのですが、これからは大きな規模での制作が主流になっていくのかなと。あとは、作品を作っていきたいという気持ちが増しました。もともと完璧なものが作りたいという願望があるので、達成すべく面白いものを作りたいです。当たり前のことですが、もっとお客さん目線で作品を作っていくべきだということも、すごく重要だと感じました。監督として、アニメーターとしてもやっていきたいので、どちらも大事だと思っています」(新井)

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