「ロマンチックで切ないノスタルジー」ラ・ラ・ランド とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
ロマンチックで切ないノスタルジー
まるで、ディズニー映画を見ているようだった。
期待値上げすぎてしまったのが失敗。
既視感あふれる物語をこういう風にアレンジするのね。
冒頭と舞台設定『ロック オブ エイジス』
群舞『スラムドッグ$ミリオネラ』
女四人の横一列『セックス アンド ザ・シティ』
青い背景でのデート『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』
自分の目指しているものと実際のギャップ。それに対する恋人の反応『はじまりのうた』
another story『あの頃きみを追いかけた』
ラストのミアの表情『ニューシネマパラダイス』
…
既視感ある映画が頭をよぎって、この映画に集中できない。
オマージュを捧げた映画として名も出てこない映画ばかりなのに…。
別の言い方をすれば、いろいろな方が表現しているものばかりだということ。
『オブリビオン』他、オマージュネタでレビューが盛り上がる秀作は山のようにあって、オマージュに喝采上げながらも、映画そのものを楽しめるものが多い。
けれど、この映画は上滑りしてしまう。
この映画からオマージュ引いたら何が残るのか。
ハリウッドで夢を実現させようとする人の物語。
どうしてここまで人物造詣が薄っぺらい?。
セブの成功。お店を持てた。けれど、”死にゆくジャズ”の店で観客一杯。なんで?一度売れた人の店はどんな店でも流行るのか?話がご都合主義。
ミアの成功。主役を張れる女優になって、結婚して子どもも授かった。それでも、子育てと仕事に忙殺されるのではなく、夫に女としても扱われて、夜べビーシッターに子どもを預けてデート。子どもも後追いしない理解のある”理想”的な子。
まるで、中二病・学生が夢見る”成功”の形。おままごと。
ミアやセブらしさが全くない。ゴスリング氏とストーンさんの演技でそれらしくなってはいるけれど。
反対に言えば、誰にでも置き換えることができる。だから、観客が自分に置き換えて、評価が高いのだろうけれど、”人”が描かれていないから映画としてはつまらない。
あの時、こうしていれば…というのは胸に刺さるが…。
そして、ダンスが惜しい。
ゴスリング氏やストーンさんにしたらすごいと思うけれど、硬い・ぎこちない・いつミスするのかとハラハラしてしまって、夢心地に浸れない。
本職のダンサーだったらもっとスムーズに夢の世界に連れて行ってくれたのに…と思う。
それでも、
渋滞で話が始まり、渋滞を避けるところでラストにつながる展開が、示唆に富んでいて好きだ。
そして、映像の色遣いのロマンチックなこと。
夕陽の海辺、部屋のインテリア、人々の衣装…。見ているだけで酔いしれてしまう。
特に、セブが絡む桟橋の中高年夫婦。あんな風に年取りたいなあ。うっとり。
かつ、音楽の使い方。
ここで無音にするか。警告音を入れるか、バックミュージックをこの調子にするかと唸ってしまう。
とはいえ、サントラとして聞くと、ジャズ愛を語りながらも、いろんなジャンルが混在していて、つぎはぎだらけで今一つ。
ミュージカルは好きだ。
『メリーポピンズ』『ヘアスプレー』『きっとうまくいく』『ウェストサイドストーリー』『ウィズ』『シェルブールの雨傘』…
突然歌いだすなんてなんでもない。日常に根付いた非日常に連れて行ってくれる。それでいて、しっかりと日常に帰ってくる。
ミュージカル映画ではないけれど、楽曲が見事に練りこまれていた映画。『ボヘミアンラプソディ』『天使にラブソング1と2』。…
何度も見返してしまう。楽曲に酔いしれる。
他にも名作は限りなくある。中には『アリー』みたいになんどもリメイクされながらも輝きを失わない映画もある。
この映画が、技巧を凝らしているのは理解する。
役者が短期間でここまで習得したのもすごい。
(でも、ピアノの演奏だって『戦場のピアニスト』『シャイン』等、それを成し遂げた役者はゴスリング氏だけじゃない)
ロマンチックな夢のミュージカルを作りたいのなら、歌・ダンスに重きを置いてキャスティングすればよかったのにと思うが、ラストのミアの表情が、この映画の肝だ。あの掛け合いはこの二人でなければできない。賞受賞も納得。
ゴスリング氏は『16歳の合衆国』『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』の方が好きだ。
反対に、ストーンさんは『ヘルプ』『アメージング・スパイダーマン2』より格段に良い。
この二人なら、ミュージカル場面を除いて、ガチで絡んでほしかった。勿体ない。
二兎を追う者は一兎をも得ず。
そう、この映画は夢を追いかけた自分へのノスタルジー。
物語の質の穴は、観客の人生が埋める。
年若い方にとっては、おとぎ話。
ロマンチックで薄っぺらくて切ないからこそ、万人受けするのだろう。
とはいえ、映画としてはもっとおもしろくできるだろうに。