「フランスのジャック・ドウミ監督風の新しいアメリカ・ミュージカルの傑作」ラ・ラ・ランド Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
フランスのジャック・ドウミ監督風の新しいアメリカ・ミュージカルの傑作
デミアン・チャゼル脚本・監督で、主演がライアン・ゴズリングとエマ・ストーンの2016年海外公開の米国ロマンティック・ミュージカル。
当時話題となっていたのは覚えているが強い食指は覚えず映画館では見損なっていて、アマゾン・プライムビデオで遅ればせながら鑑賞。お洒落なフランス・ミュージカル的なものにダイナミッックなハリウッッドミュージカルの要素を満載したこの映画は、予想外であるが自分には大変に魅力的であった。
最初のシーンから度胆を抜かれた。色とりどりの車の上で歌って踊っての群衆劇は見覚えが無く、舞台のロサンゼルスを象徴もしていて関心させられた。
最初何処かオタク的で、冴えない奴の様に見えていたライアン・ゴズリングがどんどんと魅力的に見えてくる彼の演技と監督の演出が素晴らしかった。ナイーブな彼の想いを象徴する様な海のほとりで一人歌うシーンが、歌詞と声が相まっていてとても素敵だ。自らによるらしいジャズからロック調に渡る幾つかのピアノ・キーボードの演奏も素晴らしい。
自分史をなぞる様な設定でのエマ・ストーンの演技を感じさせない存在感も印象的。ゴズリングとのダンスシーンもチャーミングで楽しげで魅せられた。
結局実現しなかったが、2人の愛成就のイメージ像をメルヘン調の映像として見せたのも、現実の対比として、また若き頃の恋愛の切なさ・やるせなさを観客に思い起こす上手いストーリー展開と感心させられた。
そして何よりジャスティン・ハーウイッツによる音楽が素晴らしかった。ひとつひとつの曲も良かったが、映画全体として主題・モチーフが様々に変化する音楽が交響曲大作の様で、トータルでも感動させられた。
ストーリーと色使いの下敷きはフランスのジャック・ドウミ監督の「シェルブールの雨傘」で、映像と音楽的には同監督の「ロシュフォールの恋人たち」がベースにあると思った。監督来日時に指摘された様だが、光るグラスの映像、黄色の使い方、照明の色変化を反映する綺麗な映像は鈴木清順監督の「東京流れもの」と類似していた。これら過去の映画の良いところを上手く抽出して、米国のメルヘン調(オズの魔法使い風)と伝統的ダイナミズム、更にオリジナルなものを加え、それらを大きく超えた新しいミュージカルに仕上げたチャゼル監督の手腕に脱帽。何度も見てみたいと思わせる傑作であった。