「映像テクニックの勉強になります」ラ・ラ・ランド デビルチックさんの映画レビュー(感想・評価)
映像テクニックの勉強になります
大阪梅田のブルク7でドルビーシネマで上映していることを知り、ようやく観ました。
今まで観なかったのは、映画館で観るためだったんだなと思いました。
なんてことを言うと大げさですかね。たぶん、ながら見とかしない方が良さそうだ的な勘は働いていたのかもしれません。
で、もうファーストシーンから面白いです!
渋滞の車を横から撮影していき、そのカーステレオの音が順々に聞こえてくる。やがて一台の車にカメラが寄っていき、運転席の女性がアップになる。彼女は歌を歌いだし、車から出て踊りだす。すると他の車からも人が出てきて、歌い踊りだす。
この流れが見事だなと思いました。めちゃくちゃ練られていて面白い。というか楽しい。
しかもこのファーストシーンだけで、この映画はミュージカル映画なんだな、女優として大成することを夢見て田舎から出てきた女性が主人公なんだな、オーディションを受けているけどうまくいっていないんだな、といったことが分かります。最低限必要な情報が全部語られます。
それにこのシーンはテクニックも満載です。
この渋滞は比喩になっていて、車一台一台が夢追い人たちを表しています。たくさんの女優やダンサー、音楽家たちが成功を夢見てひしめき合っています。ミアはこの渋滞の中にいて、オーディションのため台詞の練習をしています。大勢の中の一人に過ぎない。
ところが、終盤にも渋滞のシーンがありますが、こちらではミアは既に成功していて夢追い人ではないので、渋滞から抜けだし食事に行きます。
渋滞に巻き込まれているか抜けだすかの違いが、そのままミアの境遇を表しています。これは「似たシーンを変化をつけて描くことで境遇が違うことを描く」というテクニックです。
このシーンだけでこんなにたくさんの情報や仕掛けが散りばめられています。これほど見事なファーストシーンはなかなかありません。
一方、ラスト10分もとても良いです。ミアとセブが辿っていたかもしれないもう一つの運命が描かれ、最後に二人は微笑みあいます。その笑みは「またね」かもしれないし、「ありがとう」とも「さようなら」とも捉えることができます。色々な解釈ができるから、それが余韻になっていて、とても良いラストだと思いました。
ファーストシーンとラストシーンが共にインパクトがあって、それでいて極めて映画的で、しっかりと機能を果たしているのが、この作品の最も評価できる点です。
伏線の使い方もうまいです。セブがミアの実家を訪れる伏線として、実家の目の前にある図書館でよく叔母と映画を観てたという話をするのも全然説明くさくなくて自然ですし、その際ミアを呼び出すためにクラクションを鳴らすのも、初めてミアの家を訪れたシーンや、最初の渋滞のシーンでミアを追い越す時にも既に伏線として使われています。
直接ストーリーには関係のない、背景の窓とか鏡とかプールとか、小道具の使い方もめちゃくちゃうまいです。
こういうテクニックの勉強をするのにとても良い作品だと思います。
ただしストーリーについてはちょっと不親切です。例えばミアの成功要因は何も描かれていません。ほとんど知り合いしか来てないような一人芝居で演技を酷評されたにも関わらず、何で起用されたのか不明で、ついていけなかったです。
まぁ、そこを描いてたら映画が間延びしてしまうと判断したんでしょうね。ミュージカルや様々なテクニックを使って、少しでも説明を排除しようとしている映画ですからね。
たぶんこれ映画館じゃなくて家で観てたら、ファーストシーンの印象とか全然違ったかもしれないです。もっと客観的にストーリーを追って、評価下がってた可能性が高いです。
2016年の映画なので4〜5年観るのが遅れましたが、映画館で観て良かったです。