「絶妙な設定と映像の美しさが印象的。」イット・フォローズ lylycoさんの映画レビュー(感想・評価)
絶妙な設定と映像の美しさが印象的。
低予算ってことだけど、まったく安っぽくない。シンセらしい音楽もちょっとメランコリックなジョン・カーペンターみたいでかなり好い。そして、ホラー映画といってもお化け屋敷的なびっくり演出や直接的なグロ表現はほとんどない。そういう怖さとは少し違う、もう少し根源的な不安や恐怖を描いている。だから、ホラー好きじゃなくても十分に楽しめる作品だと思う。
「それ」は人間の姿でゆっくりと歩いて近づいてくる。「それ」は感染者にしか見えない。「それ」は誰の姿で現れるかわからない。「それ」に捕まると死んでしまう。「それ」はセックスで人に移すことができる。ただし、移した相手が死ぬと戻ってくる…このパンデミックものともゾンビものとも違う、地味な感染システムが、独特の、静かな、けれども決して逃れられない不安を効果的に演出している。
この映画、タランティーノが褒めたとか褒めてないとかいう話は別にしても、あちこちでやたらと好意的な批評を見かける。釣られて観た結果、面白かったわけだけれど、あんまりハードルをあげるのもどうかとは思った。アイデアや見せ方は素晴らしいし、郊外の冴えない若者たちの思春期の物語としてとても魅力的だけれど、展開的には荒削りなところがかなりある。
特に主人公の女の子ジェイに「それ」を移すジェフの言動にはかなり無理があるように思う。まず、セックスの後、ジェイに状況を理解させるために、下着姿のまま気絶させて車椅子に縛り付けたり、その格好のまま後手に手を縛って家の前に捨てて行ったりする理由が解らない。行方を眩ましたあと、ジェイたちに探し出された時も「一緒にいない方が良い」みたいなことをいう。これも理屈に合わない。ジェイが殺されたら「それ」は自分のところに戻ってくるのだし、一度感染している自分は「それ」が見えるのだから、どう考えてもジェイを殺させないために協力するのが妥当だろう。
もちろん、ジェイの最後の選択とエンディングを見れば、物語の要請上、それがジェフの役割じゃなかったことは理解できる。それにしても、もう少しうまくやれなかったものかなあと思わざるを得ない。あと、ゾンビものではお約束なんだけど、友だちの別荘でジェイが捕まりかけたときの「それ」の手際があからさまに悪すぎる。終盤の父親の使い方なんかは良かっただけにもったいない。
セックスとドラッグで頭がいっぱいのバカな若者たちがシリアルキラーに惨殺されていくのを、ポップコーン片手にゲラゲラ笑いながら観る…といった類のユルいホラー映画とは対極にある作品だけに、それ系にありがちなユルさはもっと徹底的に排除してしまった方が、よりテーマ性の強い、刺さる作品になったんじゃないかと思う。まあ、そのあたりは次回作に期待かな。