「自然に手を加える人間を批判する為に自然に手を加える矛盾」シーズンズ 2万年の地球旅行 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
自然に手を加える人間を批判する為に自然に手を加える矛盾
内容の好き嫌いはさておいて、まずはこの映画を
“ドキュメンタリー映画”と呼ぶべきではないと思う。
この映画は、演出されたシーンと実録映像とを
繋ぎ合わせてドラマ仕立てにした作品だ。
2万年前の氷河期から現在に至るまで、動物たちが
いかにして過酷な環境に適応し、生き延びてきたか?
という流れを、ひとつの森の中で展開されるドラマ
として追うつくりになっている。
なので多少ではあるが、テーマを訴える上で
人間の役者は登場するし、動物の役者も登場するし、
舞台装置が組まれたシーンも登場する。
ひとつひとつの動物の生態をじっくり観察する類いの
動物ドキュメンタリーとは全くの別物と考えるべきだと、
鑑賞前の方には伝えておく。
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とはいえやはり見所は、
動物学者の協力や最新設備の力によって、
驚くほど間近で撮影された動物たちの実録映像。
馬どうしや熊どうしが喧嘩するシーンで
ここまで激しいものは観たことがなかったし、
林の中を猛烈な勢いで駆けていく狼の姿も、演出ナシ
というのが信じられないくらいに劇的に捉えられている。
様々な鳥がさえずるシーンではその喉の筋肉の動きまで見えるし、
フクロウ・リス・ヤマネなどの愛らしい仕草もバッチリ接写。
どうやって撮影できたかはネットで調べれば詳しく
書かれているので省くが、物凄い労力が掛かっている
という事は観るだけでも十分に伝わる。
岩のような体躯のジャコウウシなどの珍しい動物も
登場するが、それよりは、よく知られた動物たちの
新たな一面が見られるという面白さが大きいかも。
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終盤で語られるのは、2万年もの長きに渡り、
様々な過酷な環境を生き延びてきた動物たちが、
人間の台頭によって苦境に追い込まれていく様。
伐採や工業排気による森林の破壊、動物達の利用、
害獣駆除もしくはスポーツの為の過剰な狩り……
人の勝手な都合で棲み処を奪われ、そして死んでいく動物達。
環境破壊は良くない。人間はもっと自然に敬意を
払うべきだ。過酷な時代を生き延びてきた生命に
敬意を払うべきだ。今こそ自然との共生の道を。
映画が訴えるのはそんな普遍的なテーマ。
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で、このテーマに関する部分が、
僕が本作をあまり好きになれない理由。
いやまあ、動物愛護の精神は人並みには持ち合わせて
いるつもりだしテーマ自体にも共感はするのだが、
その“見せ方”が極端でややあざといと感じた。
鎧を着せられる馬たち。戦場に駆り出される犬たち。
棲み処を戦場にされ、毒ガスの犠牲となる動物たち。
猟犬のシーンと走る鹿のシーンをカットバックさせ、
“狩られる鹿”を表現する演出。
整備された林の中を歩く鹿の象徴的なカット。
動物と視線を交わす人間の少女。
これらは撮りたい画の為、伝えたいテーマの為に
動物たちを演出しているシーンである。
……だけどさ、それってこの映画が批判している事と
五十歩百歩な事をしてる気がするんだよね……。
実は木村文乃と笑福亭鶴瓶のナレーションは日本版独自
のもので、オリジナル版にはナレーションすら無いらしい。
ナレーション無しで流れを理解するのは難しい作品だと思うし
(冒頭が氷河期のイメージだなんて言われなきゃ分かんないよ多分。)、
物語の舞台をひとつの森に限定したということもあって
やや局所的で極端な演出になったのかもしれないが、
演出過剰だと自分は感じた。
ストレートにテーマを語る日本版ナレーションのせいで
更に押し付けがましい印象を受けるのも確か。
あと……映像に慣れ始めた開巻後30~40分頃から
睡魔に襲われて、画面に集中するのがかなり辛かった。
動物たちの美しい映像が延々と流れる訳なので、
α波が出まくっているのはしようがないのかしらん。
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以上。
動物好きな方には当然オススメだし、お子さんの
自然愛護の精神を育むという目的で観るのもアリだと思うが……
作り手が伝えたい事だけを一方的に伝えられたという
イヤな感じをじんわり受けて、好きになれない。
個人的な判定としてはイマイチの2.5判定で。
<2016.01.16鑑賞>