「ヒトラー政治を許さない男のハナシ」ヒトラー暗殺、13分の誤算 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
ヒトラー政治を許さない男のハナシ
1939年11月8日、ドイツ・ミュンヘン。
毎年恒例のヒトラーの演説が行われていたが、ヒトラー退席後にその演説会場で爆破が起こった。
実行犯として捕えられたのは家具職人のゲオルク・エルザー(クリスティアン・フリーデル)。
過酷で執拗な尋問の結果、単独犯行と彼の口から告白がされるが、上層部は大掛かりな組織がいると信じて疑わない・・・というハナシ。
映画は、捕えられたゲオルクの尋問シーンと、彼の過去のエピソードが交互が描かれる。
映画の見どころは、その過去のシーン。
左派寄りであるが共産党員ではなく、音楽家として(それなりの)自由を謳歌していたゲオルクの生活から、ナチスが台頭してくることによって、束縛され自由が失われていく。
ゲオルクにはエルザ(カタリーナ・シュットラー)という恋人はいるが、彼女は人妻。
いわば、人間的には立派なひとというには、かなり遠い。
そんな彼だからなのか、時代の悪化を敏感に察する。
殖産興業の名のもとに国家的に事業を推し進めているが、それは軍需産業。
一部の人間には景気は良くなったが、多くの民が良くなったわけではない。
また、ユダヤ人を迫害することで、ナショナリズムを高め、他人の自由を認めない風潮が蔓延している。
嗚呼、遣り切れない、ここままではどんどん悪くなっていく。
ナチスドイツは9月にポーランドに侵攻し、ポーランドの同盟国のイギリスとフランスがドイツに宣戦布告してきた。
まだドイツは勝ち続けているが、戦争で得たものが幸せであるはずはなく、この先、どんどんと自由が失われていく、それが1939年11月。
「ヒトラー政治を許さない」
それが根底にあってのエルザーの決断だった。
この暗殺が失敗に終わって、その後のドイツがどうなったのか、そしてエルザーがどうなったのかは簡潔に描かれていて、それはやはり遣り切れないものだ。
ゲオルク・エルザー演じるクリスティアン・フリーデルが、英雄然としておらず、平凡な男なところがこの映画に深みを与えている。
エルザ役のカタリーナ・シュットラーは、麻生久美子似でなかなかいい雰囲気を持った女優さんでした。