劇場公開日 2016年5月7日

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「広報官と記者たちの掛け合いに迫力があれば・・・」64 ロクヨン 前編 森泉涼一さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5広報官と記者たちの掛け合いに迫力があれば・・・

2016年5月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

原作が横山秀夫の長編傑作ミステリー「64」ということで、2008年に公開された横山秀夫原作「クライマーズ・ハイ」を思い浮かべる。なぜこの映画なのかというと主人公が大きな組織に所属し一つの大きな事件から逃れられない立場であることや上からも下からも責められ疑心暗鬼になる姿が瓜二つと似ている箇所が何個もある。「クライマーズ・ハイ」と比べると勝っているところが見つからないが、「64」も少なからず名作になる予感が少しは漂った前編だった。
昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件が未解決のまま、平成14年まで時が過ぎた。当時事件を担当していた三上(佐藤浩市)は広報官として警察と記者の間でもがく日々を送っているが時効まで1年と迫った今、この未解決事件は思わぬ方向へと急展開をみせる。
原作の時点で興味深い点が早くも冒頭にあるのだが、この少女誘拐殺人事件は実際にあった話ではあるが、昭和64年には起こっていない。
そして1週間しかなかった64年にあえてこの事件をもってきた意図は天皇の死も関係している。当然1週間しかなかったということは天皇の死去が関係しているわけで、ここで注視されるのが報道の問題である。天皇死去と少女誘拐を天秤にかけた場合、前者が優先されるのは目に見えているわけだが、この選択が当事者である被害者や担当刑事たちには重荷になって今をむかえているわけである。更に言えば主人公の三上は広報官という立場であり記者との対立が絶えない日々を送っている。前の苦い経験があるからこそ同じ過ちを繰り返さないと秘めた誓いをたてている一方で大きな組織に在籍している以上、上からの指示は絶対という傲慢的な社会の中で自身の考えをどう打破していくかが前編の見所の一つ。
だが、この見所を活かしたとも言い難い緊張感のない演技がちらほら見られてしまったのが非常に勿体ない所。前編一番の山場であろう三上と記者である秋川(瑛太)たちが論争するシーンは特に安っぽいドラマを見せられているようで緊迫感が全く感じられない。気鋭の若手とベテラン俳優が一挙に出演していても配役が悪いとこうも作品全体のバランスが悪くなるのかと痛感させられた感じもした。

森泉涼一