劇場公開日 2015年5月16日

  • 予告編を見る

「現代韓国史への醒めた視線」国際市場で逢いましょう よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

1.0現代韓国史への醒めた視線

2015年5月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

朝鮮戦争、西ドイツ炭鉱への出稼ぎ、ベトナム戦争といった、第二次世界大戦後の韓国史を生きた人々には忘れられない出来事を、ことごとく体験した男性の生涯を描く。
欧州の炭鉱への出稼ぎは昨年公開の「怪しい彼女」でも触れられた。肉体的にも精神的にも辛く、大きな危険を伴う坑道での作業をはるばる韓国から来た外国人労働者が担っていたということだ。
この大戦後のヨーロッパの復興に韓国人労働者が貢献した事実と、韓国での本格的な造船を起業するヒュンダイ財閥の創業者が一つの映画で並べて語られることに大きな意味がある。
植民地支配から独立した朝鮮半島が、経済と産業の近代化を進めるには外貨の獲得と起業精神が不可欠だったということだ。
映画はこのように韓国の現代史を醒めた目で見つめている。これは、国旗に敬礼を迫られて夫婦喧嘩を途中で止めなければならないときの妻の憤まんやるかたない姿を映すコミカルなシーンにも現れている。
この醒めた視線はやはり主人公ドクス自身のものであろう。
幼い妹を見失い、父と生き別れることになった責任を生涯背負い続けている者の社会や家族を見つめる目は、このように醒めなていなくては生き続けることなど出来ないのだ。老人となったドクスが生きているはずもない父親に向かって「辛かった」と語るシーンは、言うまでもなく冒頭の生き別れからこのかたにおける彼の本音の吐露である。
ドラマは決して口には出されることのないこの本音を原動力として韓国現代史の中で展開する。だからこそ過度に一つ一つのエピソードに深入りしないのだ。そのために途中で冗長にも感じるこの作品だが、キャストの素晴らしさにも助けられて感動のラストへとどうにかこうにか導かれることができる。
お世辞にも上出来とは言えない老けメイクにも関わらず、ファン・ジョンミンが青年から老人までを、これまた過度に熱くなり過ぎずに好演している。

佐分 利信