「故郷と過去への甘え」ディアーディアー よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
故郷と過去への甘え
観たいと思っていながら、なかなか劇場へ足を運べずに結局上映最終日になってしまった。レイトショーで細々とやっていて、席には余裕があるだろうと予測していたが、場内は満席だった。
最終日ということもあってか、また、上映後のスタッフ・キャストの舞台挨拶もあってか、関係者と思しき人も少なからず。
とは言え、大半は私のような一般的な映画好きの観客で、このような小品への関心を持つ映画ファンが、テアトル新宿を埋めるくらいには東京に生息することが分かった。
寂れた地方都市での生活は経済的に恵まれているとは言えない。経済的な豊かさや華やかさを求め東京へと出て行った者がその地元へ帰ってきたとき、その土地に残った人々の彼らに対する眼差しはひどく居心地の悪いものである。
東京に行ったことで人生の問題が解決されるわけでもなく、ましてマスメディアでもてはやされるような職業や経済的成功をつかむ者はほんの一握りである。しかし、地方にいる者が東京へ行った者へ、期待し、嫉妬し、そして、その失敗を知って安心したいという地元の人間の欲望が、ときに帰ってきた者の故郷への失望につながる。
しかし一方で、自分の今の境遇の原点をその地元に求めたい気持ちがあることも確かで、東京で大成しなかった者にとってはその原因を、現在の自分ではなく過去の人間に求めるという人の弱さがある。「ぜんぶ、シカのせいだ。」ということにしたくなる弱さである。
この作品は、笑いとサスペンスを織り交ぜながら、故郷への失望と甘えをスクリーンに表現している。これは、おそらく今の日本の地方が抱える精神的な問題点を鋭く突いているのではないだろうか。人が親や子供時代の出来事への甘えを断つことでしか自立できないのと同じく、地方の東京からの自立と精神的な豊かさも、こうした甘えを克服することにかかっているのではないだろうか。三人それぞれが、別の道を進み始めるラストにはそうした希望が見て取れた。