アンジェリカの微笑みのレビュー・感想・評価
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空翔ける亡霊たち
幽体離脱したイザクがアンジェリカの亡霊に誘われ、いきおい街の上を飛翔するシーンに明確な既視感があった。パウロ・ローシャ『黄金の河』だ。『黄金の河』にも恋に狂った年増の女が唐突に村の上を飛翔するという印象的なシーンがあった。
ポルトガル語という言語的架け橋があるからなのか、ポルトガル映画にはちょくちょくマジックリアリズム的なイマジネーションの発露がみられる。先述の飛翔シーン以外にも、意識を失ったイザクが部屋で医者の看病を受けている終盤の一連のシーンがそれを端的に示していた。
窓の外にアンジェリカの亡霊が降り立ち、それに呼応するようにイザクが立ち上がる。イザクは医者の制止を振り払い窓際へ向かう。再びイザクが倒れるが、そこから彼の霊体だけが抜け出し、アンジェリカと共にどこかへ飛び去っていく。
「登場人物が奇行を演じる」というだけであればヌーヴェルヴァーグあたりに目を向ければいくらでも参照項が見つかるが、そこに明け透けな反物理的現象が伴うと途端にマジックリアリズム的になる気がする。カルロス・レイガダス『闇のあとの光』、ロイ・アンダーソン『ホモ・サピエンスの涙』なども好例だろう。
物語の宗教的絵解きは他の誰かに任せるとして、演出に関して何点か。
全編を通してフレーム外という概念を念頭に置いた映画だった。たとえばアンジェリカの家族たちが邸宅にやってきたイザクを出迎えるシーンでは、イザクが映し出されないまま会話が進行する。ようやく左手からイザクが現れ、そこではじめてアンジェリカの家族たちとイザクの距離感が視覚化される。
あるいはイザクがアンジェリカの墓地を見やるシーンでは、肝心の墓地は映し出されず、柵越しに墓地を見やるイザクの姿だけが映し出される。
視線の対象ではなく、それを眼差す主体の反応だけを映し出すことで、イマジネーションを増幅させるという古典的手法が、本作の場合は「幽霊の登場」という荒唐無稽さに対するある種のイントロダクションとして機能していたように思う。
また、反復の運用も見事だった。たとえば教会の前でイザクに擦り寄ってくる乞食を何度も映すことで、中盤以降は乞食を映すだけでイザクが面倒な目に遭うことを示唆する。あるいは轟音を立てながら自宅前を通り過ぎていくトラックの場合は、一度目だけトラックを映し出すことで、以降は音だけでトラックの通過を表現することを可能にした。
102歳にしてこんな映画を撮ってしまうオリヴェイラの老獪ぶりに戦慄した。
101歳の頭のなか
青春小説
わからない
どうにも理解できない内容で、多分ヨーロッパ文化特有の、宗教つまりキリスト教とか、民族の歴史が関わって来るのだろうな、と推測するものの、よくわからない。
音楽は言うまでもなくショパンが雨模様のポルトガルを、美しく飾るが、その他の風景は、典型的なポルトガルの町並みを写し出し、それ以上美しく見せようとはしていない。
アンジェリカも当然美しいが、それは死者としての美しさであって、物語をぐいぐい引っ張る人を狂わすほどの狂気の美女としては監督はとっていないと思う。
そして、下宿での人々の会話はどうもすべてが比喩的なのだけど、一体なんの話をしているのか、さっぱりわからない。
考えても答えが出てこず、たまらず日本人の映画評論家みたいな人のブログで確認したけど、この監督の底力を感じさせる静かだけど強烈な映画、とかそんな内容で、何がどうとは全く触れられておらず。
たどり着いたマノエル監督の経歴のなかで、アートと宗教は切り離せない、そして、自分は宗教に深く影響されている、とある。なるほど、これですべて解決するわけではないが、私なりの見方がわかってきた。
つい最近、キリスト教には必ずシンボルがあると知った。例えば鳩、は精霊。
映画でははじめから鳥がイサクを見つめる。
そして、ユダヤ人のイサク。
そして、アンジェリカの最後は被昇天のマリアのよう。つまり、、、
監督の母国ポルトガルはマリア信仰のカトリック。だから?浅い宗教知識では読みきれない。だけど、監督は現代の世の中は環境が汚染され、宗教対立が著しく、ソドムとゴモラに言及している箇所もあった。だから、この映画は単純に美しいとか、幻想的という以上に死と生命の物語なのだろう。だけど、悲しいかな、なんとか理解したつもりの、やはりわからない映画であった。
見て良かった、それは素直に思う。見てから頭から離れないもの。
ずばり、好き嫌いが分かれる作品です。 美しい画面からは常にほの暗さ...
「お札はがし」までいかない
ベラスケスとかゴヤ、時々ダリ
伝統的なヨーロッパ絵画のような画面で非常に美しさを感じる。
カットカットが長く、ゆったりとした時間が流れる。その上ピリスのショパン、眠りの魔の手が容赦なく忍び寄る。
おとぎ話のように展開するが、決してファンタジーなどではなく、あくまでリアリズムを根底とした作品。もしかしたら主人公の視点で描かれたならばファンタジーになり得たかもしれないが、あくまでひいた目線で物事を捉えている印象がする。
死を神秘的に扱っているものの、カメラはあくまで冷静にその死を捉え続けているが故に、なかなか単純な感情でこの映画を見ることができなかった。ストーリーはそれほど難しいものではないけれども、感情のもって行き方は一筋縄ではいかないというのが正直な感想。
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