「気持ち悪い」ルック・オブ・サイレンス toukyoutonbiさんの映画レビュー(感想・評価)
気持ち悪い
気持ち悪いけど、生きていく上で見ておいて良かった映画だと思う。
この映画は「アクト・オブ・キリング」という映画の姉妹映画として撮られたもの。前作は虐殺者に主眼を置かれていたが、今回は被害者であるアディが主人公となって、加害者側の人たちにコンタクトをとっていく。
正直見ていて気が滅入った。
人間の殺し方、ひいては兄の殺し方を教えられるアディ、
加害者側は「話を聞きたくない」「どうして蒸し返す、争いを繰り返したいのか、忘れるべきだ」「もう許してあげて、こちらを家族と思ってちょうだい」とぬけぬけと抜かす、
こんな非道が社会的に罰されることなく肯定されている現実、
教育も虐殺者は英雄だと歪んだ形で子ども達に伝えられている、
そもそも加害者は当時の奪略や政権の影響によって現在裕福に暮らしていて、被害者は住処を追われ貧しく暮らしている、被害を訴えることもタブー視される現状、全てがダメージを与えてくる。
監督の話から、本来なら本作こそが恐らく最初に世に出されるものだったのだろう。
自分の行為を正しいと思えば人はいくらでも酷い事ができるのだなと痛感する。どれもこれも吐き気がする。
昔は共産主義者をどう殺したかという本すら出版された。当時中華店に女性の首を投げ入れると店主が叫んだと笑って話す老人。よく正気を保っていられると思う。
虐殺者の一人が、正気を保つために殺した人間の血を飲んだ、だから俺は今でも正気だ、と話すシーンがある。この人も社会も狂っているとしか言いようがない。
アディは町の権力者にも会いに行く。「僕はあなたの指示であなたの部下が殺した人間の弟です」といえばアディが何処に住む誰なのかを訊いてくる。アディの活動を聞いたアディの母は殺されるかもしれない、棒を持て、警戒しろとアディに警告する。
それだけ町は危険で溢れていて被害者が声を上げられる状況ではない。
遺族と知った途端、態度が急変する人々がとても印象的だった。
でも、自分や、ましてや自分の身内がやった行為に向き合うと人は生きていけないとよく分かった。目の前にいる人物が被害者だと分かると、みんな目をそらす。加害者は自分がどれだけ異常なことをやったのか分かっている。そして恐らく周囲の人間からは人殺しとして恐れられている。
誰も何も言わないけど、被害者が実際に会いに来たことは加害者にとっては怖かったろうな。殺された方はもっと怖かっただろうけど。
ルック・オブ・サイレンスというけれど、アディの母親の話す「加害者、加害者の家族、子どもが不幸であることを望む」というのが、被害者の本音であると思う。
アディはただ静かに見つめていたけれど。
こんな映画を見て、人を恨んじゃいけないなんてとても言えない。
虐殺は、この人たちに大きな傷と断絶を産んだ。これからこんな歴史を持ったこの国の子孫達はどうなるんだろう。どうやって向き合っていくのが正解なんだろう。
これからもこのドキュメンタリーの出来事がこの国ではずっと続いていくと思うと苦しい。